MR(医薬情報担当者)だって恋します!
ふぅ。
兄ではない。母でもない。
頭で自分に言い聞かせる。分かっているのに、不安が消えない。司とは心も体も繋がったのに、なんでこんなに兄の言葉ばかり気になるんだろう。
「きっと幸せすぎるから不安なんだ」
呟いて、しまった、と思うと、
「うーん、深いですね」
と首を傾げて笑う沢野先生が目の前にいた。
思わず手に持っていた資料を落としてしまう。拾おうとする沢野先生に、
「いえ、大丈夫ですから!」
と言って自分で拾う。
「声をかけたんですが、鈴木さん、気付かず百面相をしてましたよ?」
営業中に感情を顔に出しちゃいけないと思ってるのに情けない。幸い、15時前で他のMRが回りにいなかった。
「部屋に来ませんか?」
と沢野先生に言われ、私は頷いた。
「人は絶好調の時にそれを楽しめる人と不安になる人がいますよね。鈴木さんは後者なのですね」
沢野先生に言われて私は素直に頷いた。
「沢野先生には兄弟はいますか?」
「いますよ、弟が。四つ離れていて、今は大工をしてます」
「大工?」
私は目を瞬かせる。
「はい。僕と違って自由に生きてますよ。時々羨ましくなりますが、弟も色々思うところはあったのかな」
優秀な沢野先生の弟……。自分と沢野先生を比較することもあっただろう。
「私は三つ上の兄がいるんです。ちょっと沢野先生の弟さんの気持ち、分かるかもです」
「どんな気持ちですか?」
「優秀な兄と比較されるといたたまれない気持ちに私はなります」
私は俯いて言った。
「いたたまれない? そんなに?」
「ええ。うちの兄は沢野先生と違って優しくなくて、私のことを馬鹿にしてばかりでした。母も。私は出来損ないだと。こないだも兄にお前は振られると言われて……」
私は慌てて笑顔を作った。
「変な話をしてしまいました!」
「いいんですよ。無理して笑わなくて。そうですね。育った環境で思考回路も変わりますよね。鈴木さんは自分に自信が持てないのかな? 謙遜かなと思ってましたが、そうではないみたいですね。それで、鈴木君とのことも不安になるんですね。愛されていて幸せなのに」
「はい。そうなんです」
「これはやはり……」
沢野先生はにっこりと微笑んだ。