MR(医薬情報担当者)だって恋します!


 橘先生の存在をありがたいなと思いながら階段を降りていると、階段を上がってくる司に会った。
 司は私の目をじっと見つめて、

「ぼちぼちやれよ」

 と一言小さく言うと、何もなかったように階段を上がって行った。
 司の目はいつもやさしい。私の中のもやもやしたものを落ち着けてくれるような深さがある。
 私は司の瞳を脳裏に焼き付けるようにもう一度思い出して、循環器内科のある3階のエレベーターホールに行った。
 すると今度は沢野先生に会った。沢野先生も橘先生と同じように手招きして、私を自室へと入れた。

「まあ、座ってください」

 私は勧められるままに椅子に腰掛けて沢野先生と対峙する。

「困ったことになっているようですね?」

 沢野先生の口元は微笑んでいたけれど、目は真面目だった。

「沢野先生もご存知なのですか?」

 沢野先生は私の言葉に、

「僕以外にも心配してくれてるドクターがいるようですね」

 と安堵するように笑った。だがまた顔を引き締めて、

「夏目さんが出入り禁止になったのも知ってますよ。鈴木さんはもしかしてそのことで何か谷口先生に言ったのでは?」

 相変わらずの鋭さに私は一度瞬きをして、頷いた。
 沢野先生は私の話を待つようにじっと見つめてくる。

「あの、そのことなんですけれど」
「うん」
「詳しいことは、まず鈴木君に話してから先生にも話そうと思います」

 私の言葉に沢野先生は驚いた顔をした。

「まだ鈴木君に相談してなかったの?」

 私は困ったように笑って頷く。

「私の問題だと。迷惑をかけたらいけないと思って」
「鈴木君、怒らなかった? 男としては彼女が困ってるのに何もできないなんてとても悔しいと思うよ?」
「そうみたいです。だからちゃんと話そうと思って」
「そうしてください」

 私が頷くと、沢野先生は手帳を胸ポケットから取り出し、何やらさらさらと書いて私に差し出した。

「僕のメルアドです。鈴木君はよく思わないかもしれないけれど、連絡手段があった方がいい気がして。鈴木君にも教えていいから。くれぐれも無理しないでね、鈴木さん」

 気遣うように沢野先生は言い、

「処方は多めにしときますから」

 と付け加えた。私はそんな沢野先生にもう一度笑顔になる。

「ありがとうございます。よろしくお願いします」
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