MR(医薬情報担当者)だって恋します!
「最近色んなことがバケツをひっくり返したみたいに起こって、びっくりだよ」
鈴木の車に再び乗って、私は呟いた。
「何? そんなになんかあったの?」
私はそうだね、と笑う。鈴木になら言っていいかな。
「失恋したんだ」
「え? ええ~?!」
今日、一番大きな鈴木の声。
「彼氏いないって言ってなかった?」
「うん」
「え? 振られたってこと? 好きな人いたの? 誰? 俺の知ってる人?」
矢継ぎ早に鈴木は言った後、
「あ、ごめん。訊かれたくないよな」
と言い直した。
「べつにいいよ。橘先生」
「ええー?!」
鈴木が、今日一番の大きな声を更新した。
「失恋も何も、橘先生、妻子持ちじゃん! 何? 不倫してたの?!」
運転に集中できなくなったのか、鈴木は路肩に車を止めて、ハザードランプを点け、私を見た。
「不倫なんてするわけないじゃん! 片想いがバレちゃって振られたの」
「……橘先生て、何才くらいだろ」
はあ~と脱力して鈴木が言う。
「うーん、写真に写ってた子供が小学生の高学年くらいだったから、四十くらいじゃない?」
「随分と年上だけど……」
鈴木に言われてこの時私は自分の悪い癖を思い出した。
「そうだった! 私、年上の頭のいい、やさしい人を好きになっちゃうんだった!」
「え? 今までも?」
「そう。学校の先生とか」
「……そりゃ彼氏できないよな」
鈴木がボソッと呟く。
「まあ、でも、橘先生見直した。ヤバイドクターだったら、鈴木、利用されてポイだぞ?」
「本当にそうなのかな?」
「だよ」
私は鈴木に言えて少しスッキリしている自分に気がつく。
「鈴木、今日、誘ってくれてありがとう。なんか、色々軽くなった感じ」
「そりゃあ良かったね」
鈴木がハンドルを再び握り、車を運転しだした。
「はあ~」
鈴木は大きなため息をついている。
「な、何?」
「いや、はあ。そうか……」
「?」
大学の患者用の駐車場タワーにつくと、
「運転、気をつけてな」
と鈴木が言った。
「うん。本当に今日はありがとう! また食事行こう! 今度は鈴木の愚痴聞かせてね」
私が営業車のプリウスに乗るのを見て、鈴木は一度手を挙げて車を出した。
私はその後支店に車を置いて、地下鉄で帰った。家に着くと時計は夜の11時を回っていた。
大きな欠伸が出る。そう言えば昨日あまり寝てないんだった。
私はシャワーだけで浴びて、ベッドに横たわった。そして数分で眠りについた。