MR(医薬情報担当者)だって恋します!


 資料を出して宣伝をすることはなかなかできないのだけれど、それでももし必要だったらと思うと荷物が多くなる。肩にカバン。両手に製品名の入った紙袋を持って10階まで階段を上がるのは結構な労力だ。
 10階のエレベーターホールで息を整えながら予定を確認していると、谷口先生がエレベーターから出てきた。
「お疲れ様です! 千薬です!」
「ああ、お疲れ様」

 谷口先生が医局に歩いて行くのに合わせて隣を歩く。 
「6月30日に講演会があるので、ぜひ来ていただければと思います」
「講演者は誰かな?」
「花咲大学の腎臓内科の千葉教授、東方病院循環器内科の江嶋講師にお願いしております。19時から駅前のインターナショナルホテルでになります」
「 分かりました。なるべくいきたいと思います。日にちが近くなったらまた声かけてくれる?」
「はい! 勿論です! それで、この講演会の案内のポスターを医局に貼らせて頂きたいのですが……」
「ああ、勿論いいよ」

 私は競合品のある他社の講演会案内の隣にわざと貼らせてもらった。

「あ、そうそう。説明会の日程出てるから、千薬さんも入れといたほうがいいよ?」
「あ、はい! では記入させて頂きます」

 間を空けて二回入れさせてもらった。

「それから、鈴木さん」
「はい?」
「渡部先生がエクサシールWを使いたい患者がいるとかで、話が聞きたいって言ってたよ」
「わあ、嬉しいです。ところで、腎臓内科で入っている自主研究の患者さん、集まりはどうですか?」
「昨日は三例の患者さんを組み入れたよ? はい、患者名と担当ドクター」
「ありがとうございます!」

 私はもらった紙をクリアファイルに挟んで大事にしまった。

「ありがとうございました!」

 私は谷口先生に深々と頭を下げて、

「また後で来ます」

 といって腎臓内科の医局を出た。
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