並んで歩くなら、あなたと
 ホースを二つもらって、世菜先輩と一緒に裏門に向かった。


「部長たちと何してたの?」

「倉庫の掃除と道具の棚卸です。たぶん水やり終わってもやってるだろうから、手伝おう」

「うん……由紀(ゆき)さん、部長たちと仲良いよな」

「従兄妹だもん。それに親が同業だからね、従兄妹っていうより幼馴染みたいな感じ」

「ふうん。あんなすごい従兄がいたら、俺ならコンプレックスになっちゃうな」


 やけに卑屈な言い方をするから、ちょっと驚いた。

 世菜先輩はおっとりしてるから、そういう感情があるなんて思ってなかったな。ちょっと言葉を選ぶ。


「藤也より、藤也のお父さんのほうがかっこいいからね。藤也はそれに反発して、頑張って今のすごい藤也になったんだよ」


 別に藤也だって、最初から勉強ができたわけでも、感じがよかったわけでもない。

 他人が結果だけ見て僻むのは感じが悪いし、世菜先輩にそんなこと言ってほしくなかった。


「……ごめん」

「私に謝らなくていい」


 裏門に着いたから、ホースを置いて蛇口に繋げた。

 門の左右に分かれる前に、私は世菜先輩の顔を見上げた。


「先輩」

「……うん」

「先輩は、藤也のどういうとこがすごいと思う?」

「えっ……えっと、堂々としてるとことか」

「うん。あとは?」

「いつも人に囲まれてて、かっこよくて」

「うん」

「成績がよくて、何を聞いても笑顔で教えてくれて」

「うん」


 私は先輩の話に相槌を打ちながら聞いた。

 世菜先輩が羨ましがってるそれは、どれもこれも、藤也が頑張って手に入れたものばかりだ。

 もちろん藤也一人だけじゃなくて、両親の藤乃(ふじの)くんや花音(かのん)さん、彼女さんがいたからっていうのもあるけど。


「……ごめん、俺、こんなんで」


 言い終えた世菜先輩は、しょんぼりした顔で俯いた。


「私に謝らなくていい」


 さっき言ったことを繰り返した。


「謝らなくていいけど、卑屈になってほしくないな。誰もが藤也みたいになれるわけじゃないし」

「……うん」

「別にいいでしょ。みんながみんな、あんなキザにならなくたって。世菜先輩だって、こんなにかわいいんだし」


 手を伸ばして、先輩の目にかかった髪をよけた。

 見た目よりも硬い髪をどかすと、垂れ気味の明るい茶色の瞳に日があたって、キラキラして見えた。


「花菜ちゃんの方がかわいいよ」

「あんまり言われたことないな。頼もしいとか、かっこいいとは言われるけど」

「もちろん、そうなんだけど」


 先輩の眉間にシワが寄った。

 罠にかかったタヌキみたいな顔をしてる。


「ねえ、先輩。さっさと水やりしちゃおうよ。その後、倉庫の片付けを手伝って、そのかっこいい部長に恩を売っておこう」

「……そだね」

「そんで、お礼にアイス奢ってもらおう。そうしよう。私、いちご味が好き」

「俺も、好き」

「ね」


 やっと笑ってくれた世菜先輩にホースを渡して、私も水を撒いた。

 ゴールデンウィークの眩しい日差しの下で、水がキラキラしながら花壇に散っていく。途中で虹を作ったり、ホースを潰して水鉄砲みたいにしたりしながら、水やりを終えた。


 世菜先輩と二人で中庭に戻って、倉庫の片付けを手伝った。

 といっても、他にも手伝いたがる人がいっぱいいたから、私は適当に切り上げさせてもらう。


「藤也、私先に帰るね。手伝ったから、今度アイスおごって」

「おう、お疲れ。世菜におごってもらえ」

「なんでよ。まあいいや、また明日ね。世菜先輩はもうちょい手伝っていきます?」

「うん。この後用事もないし、女の子ばっかだから力仕事していこうかな」


 そういうことを当たり前みたいに言える時点で、世菜先輩は全然『こんなん』なんかじゃないと思うんだけど。

 でもそれをこの人にどう伝えればいいのか分からないから、もう一度先輩の前髪に手を伸ばした。


「よしよし、いります?」

「な、なんでだよ。いらな……くもないけど、今はいいや」

「そう。じゃあ、世菜先輩もまた明日」


 近くにいた桔花と蓮乃や、他の部員にも声をかけて先に帰った。


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