並んで歩くなら、あなたと
放課後、相変わらず迎えに来た世菜先輩と、部活に向かった。
先輩は体育が苦手だから、体育祭の出場競技は最低限だそうだ。予想どおりすぎる。
「できることなら前後一週間は雨が降って、校庭ごと流れちゃえばいいと思うよ」
「どんだけ嫌なんですか。ダメですよ、先輩が植えた花壇が流れちゃう」
「俺はそれぐらい体育祭嫌い」
世菜先輩はニコッと笑った。
こんな綺麗な笑顔でそんな情けないこと言って。
「体育祭で楽しみなことは、なにかないんですか」
「ない。……たぶんこの後、部活でも体育祭の話だよ」
「そうなの?」
そのまま先輩と中庭の倉庫まで行くと、藤也が待っていた。
「お、来たな」
「なに?」
「体育祭の部活対抗リレー用に計測してるんだよ。花菜と世菜も走って。世菜、全然隠れてねえから」
さっきまで隣にいたはずの先輩は、いつの間にか私の後ろに隠れていた。
でも先輩は私より二十センチ以上大きいから、全然隠れてない。
「何してるんですか?」
振り返ったら、先輩は顔を逸らした。
「走りたくない。部長、俺が走るのクソほど遅いの知ってますよね。わざわざかわいい後輩の前で、かっこ悪いとこ見せなくたっていいじゃありませんか。俺は走りません」
「ウケる。じゃあ花菜が先に走って」
藤也はまくし立てる先輩に苦笑して、私にコースの説明をした。といっても、中庭の真ん中を倉庫から通りまで走るだけだけど。
「じゃあ世菜はそこで見てろよ。こいつ、すごいから」
「見ててね、先輩。すごいよ」
藤也がゴールで手を振った。
私は腰を沈めて、合図を待って走りだした。
「っし、どう?」
「いいね。さすが。じゃあ花菜は一番ね」
「藤也は?」
「俺はアンカー」
「ていうか、部活対抗リレーって、こんなに熱心にやるんだ?」
どっちかっていうと、イロモノっていうか、お遊びの競技だと思ってたんだけど。
藤也はなぜか気まずそうな顔になった。
「……園芸部とサッカー部が例年仲悪くてえ」
「ああ、サッカー部の美人マネを藤也が略奪したから」
「略奪言うな。正当な手順でお付き合いにいたっております。つーか、その前に園芸部の美人をサッカー部のエースが口説き落としたから、そのときからもうダメだね。それで、去年の体育祭で俺が女マネを泣かせて、サッカー部を怒らせました。で、部活対抗リレーでボコボコにやられて悔しかったから、今年は雪辱を果たしたく思います」
……完全に私怨だった。ていうか、それ痴話喧嘩だよね。
まあ、私は走るのが好きだからいいけど。
「世菜も走れよ」
「嫌です」
「そういう理由なら、先輩は走らなくていいでしょ。世菜先輩、走るの速い?」
「カタツムリより遅い」
ムスッとした顔で即答する先輩の袖を、引っ張る。
私は他にしたいことがあるんだ。
「ならいいんじゃない? ね、先輩。水やりに行く前に校庭の花壇見ていこうよ。私たちが植えた苗の様子を見にきたいな」
「ったく、花菜は世菜に甘い」
「藤也の自業自得じゃん! 私は走ってあげるからいいでしょ。桔花と蓮乃は?」
「まだ。っていっても、あいつらも親父に似て運動神経ないから、どうかな……」
苦笑する藤也を置いて、私は先輩とホースを取り出す。
裏門に向かう前に校庭の花壇を見に行くと、日当たりがいいからか、苗はスクスク育っていた。
「うん、大丈夫そう」
「よかった。……由紀さん、走るの早いんだね」
「そうでしょ。走るの大好き」
「なのに、園芸部なんだ?」
「走るのも好きだけど、花の世話をする方が好きです」
「そっかあ。俺は走るのも体を動かすのもほんとダメ。転ぶから、手えつないでてほしい」
しょげた顔でため息をついて、先輩は肩を落とした。
下から覗き込むと、先輩は恥ずかしそうな顔になってそっぽを向いた。
先輩が鈍くさいことなんて、私はとっくに知っているのに。
「体育祭のときは無理だけど、裏門までなら手えつないであげますよ」
「え、いいの?」
「……やっぱ無しで」
「そっかあ」
「付き合ってもいないのに、手をつないで歩いてたら恥ずかしいでしょ。でもまあ、転びそうになったら支えるくらいはします」
「うん。じゃあ、そろそろ行こうか……わっ」
先輩は歩き出そうとして、砂利で足を滑らせた。
慌てて腰を支えて、なんとか間に合った。
「やっぱり、手をつなぎます。行きましょう」
「ありがと」
先輩の手を掴んで歩き出した。
見上げると、先輩はふにゃっと笑っている。かわいいけど、後輩に手を引かれていること、もうちょっと気にしてくれないかな。
***
先輩は体育が苦手だから、体育祭の出場競技は最低限だそうだ。予想どおりすぎる。
「できることなら前後一週間は雨が降って、校庭ごと流れちゃえばいいと思うよ」
「どんだけ嫌なんですか。ダメですよ、先輩が植えた花壇が流れちゃう」
「俺はそれぐらい体育祭嫌い」
世菜先輩はニコッと笑った。
こんな綺麗な笑顔でそんな情けないこと言って。
「体育祭で楽しみなことは、なにかないんですか」
「ない。……たぶんこの後、部活でも体育祭の話だよ」
「そうなの?」
そのまま先輩と中庭の倉庫まで行くと、藤也が待っていた。
「お、来たな」
「なに?」
「体育祭の部活対抗リレー用に計測してるんだよ。花菜と世菜も走って。世菜、全然隠れてねえから」
さっきまで隣にいたはずの先輩は、いつの間にか私の後ろに隠れていた。
でも先輩は私より二十センチ以上大きいから、全然隠れてない。
「何してるんですか?」
振り返ったら、先輩は顔を逸らした。
「走りたくない。部長、俺が走るのクソほど遅いの知ってますよね。わざわざかわいい後輩の前で、かっこ悪いとこ見せなくたっていいじゃありませんか。俺は走りません」
「ウケる。じゃあ花菜が先に走って」
藤也はまくし立てる先輩に苦笑して、私にコースの説明をした。といっても、中庭の真ん中を倉庫から通りまで走るだけだけど。
「じゃあ世菜はそこで見てろよ。こいつ、すごいから」
「見ててね、先輩。すごいよ」
藤也がゴールで手を振った。
私は腰を沈めて、合図を待って走りだした。
「っし、どう?」
「いいね。さすが。じゃあ花菜は一番ね」
「藤也は?」
「俺はアンカー」
「ていうか、部活対抗リレーって、こんなに熱心にやるんだ?」
どっちかっていうと、イロモノっていうか、お遊びの競技だと思ってたんだけど。
藤也はなぜか気まずそうな顔になった。
「……園芸部とサッカー部が例年仲悪くてえ」
「ああ、サッカー部の美人マネを藤也が略奪したから」
「略奪言うな。正当な手順でお付き合いにいたっております。つーか、その前に園芸部の美人をサッカー部のエースが口説き落としたから、そのときからもうダメだね。それで、去年の体育祭で俺が女マネを泣かせて、サッカー部を怒らせました。で、部活対抗リレーでボコボコにやられて悔しかったから、今年は雪辱を果たしたく思います」
……完全に私怨だった。ていうか、それ痴話喧嘩だよね。
まあ、私は走るのが好きだからいいけど。
「世菜も走れよ」
「嫌です」
「そういう理由なら、先輩は走らなくていいでしょ。世菜先輩、走るの速い?」
「カタツムリより遅い」
ムスッとした顔で即答する先輩の袖を、引っ張る。
私は他にしたいことがあるんだ。
「ならいいんじゃない? ね、先輩。水やりに行く前に校庭の花壇見ていこうよ。私たちが植えた苗の様子を見にきたいな」
「ったく、花菜は世菜に甘い」
「藤也の自業自得じゃん! 私は走ってあげるからいいでしょ。桔花と蓮乃は?」
「まだ。っていっても、あいつらも親父に似て運動神経ないから、どうかな……」
苦笑する藤也を置いて、私は先輩とホースを取り出す。
裏門に向かう前に校庭の花壇を見に行くと、日当たりがいいからか、苗はスクスク育っていた。
「うん、大丈夫そう」
「よかった。……由紀さん、走るの早いんだね」
「そうでしょ。走るの大好き」
「なのに、園芸部なんだ?」
「走るのも好きだけど、花の世話をする方が好きです」
「そっかあ。俺は走るのも体を動かすのもほんとダメ。転ぶから、手えつないでてほしい」
しょげた顔でため息をついて、先輩は肩を落とした。
下から覗き込むと、先輩は恥ずかしそうな顔になってそっぽを向いた。
先輩が鈍くさいことなんて、私はとっくに知っているのに。
「体育祭のときは無理だけど、裏門までなら手えつないであげますよ」
「え、いいの?」
「……やっぱ無しで」
「そっかあ」
「付き合ってもいないのに、手をつないで歩いてたら恥ずかしいでしょ。でもまあ、転びそうになったら支えるくらいはします」
「うん。じゃあ、そろそろ行こうか……わっ」
先輩は歩き出そうとして、砂利で足を滑らせた。
慌てて腰を支えて、なんとか間に合った。
「やっぱり、手をつなぎます。行きましょう」
「ありがと」
先輩の手を掴んで歩き出した。
見上げると、先輩はふにゃっと笑っている。かわいいけど、後輩に手を引かれていること、もうちょっと気にしてくれないかな。
***