並んで歩くなら、あなたと
 裏門で水やりをして、そのあと門の外に出た。外壁沿いの花壇は雑草まみれになっていた。


「おお、ボサボサだ……」

「大変だと思うけど頑張ろう」


 今日は、学校の敷地を囲む花壇の草むしりだ。

 他の手隙の部員とも合流して、地道に雑草を抜いていく。


「由紀さんは体育祭何出るの?」

「出られるやつは、全部出ます」

「さっき走るの早かったもんね。すごかったよ」

「でしょ? 本番も頑張るから、見ててくださいよ」


 世菜先輩とそんな話をしていたら、他の先輩や部員も加わってきた。


「俺もクラス対抗リレー出るよ」

「部長、去年、笑っちゃうくらいサッカー部に負かされててさ。あれはクソダサかったわ」

「お前も抜かされてただろ」

「世菜は、とりあえず完走すればいいから」

「応援合戦あるの知ってる? 参加するのは三年だけなんだけど」


 先輩たちが盛り上がっている。私は高校の体育祭は初めてだから、楽しみだなあ。

 桔花と蓮乃は一昨年、藤也の応援がてら見に来たらしいけど、私は行かなかったから。


「世菜先輩」

「うん?」

「楽しみだね」

「俺は楽しみじゃないけど……うん、でも花菜ちゃんの活躍、楽しみにしてる」


 世菜先輩は、しゃがんだまま溶けたように笑った。

 ずっと見ていたくなるような、かわいい顔だ。


「そうですよ。私、先輩が転んだりひっくり返ったりしないようにいつも見守ってるんですから、たまには先輩が見ててください」

「見てるよ」


 ふっと、先輩が真顔になった。

 夕陽に照らされて、ふわふわの髪が赤っぽく光っている。

 いつも明るい色をしている瞳に影がかかって、やけに暗く見えた。


「俺はいつも、君のこと見てるよ」

「……そうなの」

「そうだよ。体育祭でもずっと見てる。……さ、そろそろ片付けようか。続きは明日にしよう」

「はい……」


 なんだろう。

 ちょっと、本当にちょっとだけど、怖かった。

 世菜先輩もあんな顔するんだ。

 私はなんだかソワソワして仕方ないのに、先輩はいつものふにゃっとした顔に戻っていて、


「ゴミ袋は俺が持つから、ゴミ捨て場の扉を開けてくれる?」


 なんて言ってて、なんだかなあ。

 黙ってついていって、ゴミ捨て場の扉を開けた。

 先輩は何でもなさそうに、ちょっとよろけながらゴミを捨てた。

 二人で並んで中庭に向かう。


「由紀さん、どうかした?」

「何でもないです」

「そう? 元気なさそうに見えたけど」

「……先輩は」


 言いかけて顔を上げた。

 やっぱり、ふにゃっとした笑顔で私を見ていた。


「なんでもない。世菜先輩は、いつもそうやって笑ってて」

「うん、わかった」


 先輩は穏やかな声で言って、それ以上何も言わなかった。
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