鬼同期が家だとオカンだったし、その後スパダリに進化した
「お待たせ」

「おう。なんか食いたいもんある?」

「このあと駅のほう行くんでしょ? エビセン屋さんもそっちだし、駅前で食べようよ。長谷川、おすすめの店ある?」

「駅前ならラーメンか洋食」

「時間ある?」

「約束が十四時だから大丈夫」

「じゃあ洋食にしよう」


 並んで歩くと、当たり前だけど長谷川のほうが歩くのが速い。身長差もあるし、私はヒール高めのパンプスだし。


「ちょ、待って、もうちょいゆっくり歩いて……!」

「立花、そんな歩くの遅かったっけ?」


 長谷川は不思議そうな顔で振り向いた。

 この前コメダに行ったときのことを言ってるんだろう。

 ばーか、ばーか!

 紫くんですら、ちゃんと歩調合わせてくれるのに。


 息を切らしながら、長谷川に追いつく。


「今日はヒール高いから、そんなスタスタ歩けないよ」

「あ……、そうだな。悪い」

「いいよ」


 長谷川は何か言いかけたけど、そのまま口を閉じた。


 それからは、さっきよりゆっくり歩いてくれる。


 駅前の洋食屋さんでも、長谷川は自分の注文を決めたらさっさと店員さん呼んじゃうし、水も自分の分しか注がないし、お前は昭和の亭主関白か?って感じ。

 でも、それを一つずつ指摘すると、長谷川は決まって気まずそうな顔をする。本当に無意識なんだろう。


「……さっき、立花ってめっちゃ気が利くんだなって、思ったんだよ」


 ハンバーグを切り分けながら、長谷川が言った。


「昼決めるとき、俺の午後の予定確認してから店選んだじゃん。そこまで考えて動いてるの、すげえなって」

「ふうん。珍しいね。明日、槍でも降る?」

「真面目に言ってるんだから茶化すなっての。俺、自分は仕事ができるつもりでいたけど、全然だった」


 長谷川はため息をついてハンバーグを食べた。

 いつも自信満々で、相変わらず言い方もキツめな長谷川が、こんな殊勝なことを言うなんて……。本当に明日は槍でも降るのかもしれない。


「ていうか、なんで長谷川ってなんでもかんでも自分で抱えてたの?」

「仕事だから」

「仕事なら、なおさら分担しなよ」

「……ほんとだよな。自分でもびっくりした」


 いや、びっくりしたのはこっちなんだけど。

 長谷川は、営業成績だけ見ればめちゃくちゃ優秀なのに。

 なのに、なんで職場でのコミュニケーションだけそんな壊滅的なんだ。


「でも最近、ちゃんと私に聞いてきたりするじゃん」

「……反省した」


 蚊の鳴くような声が返ってきた。

 長谷川が反省してる! やっぱり明日は槍でも降りそうだ。


「立花に『言い方がキツイ』って言われてさ。そのあと『任せてくれていい』って言われて、ああ、そういうもんなのかって。……秦野のこともあったし」


 長谷川が、目に見えてしょげた。

 あの俺様何様モラハラ男の長谷川が、こんなにも落ち込むとは……。


「まあ、別になんでもいいんだけどさ」


 わりと本気でそこはどうでもよかったので、皿に残ったソースをパンでぬぐいながら言った。


「私はただ、気分よく働きたいだけなんだよ。長谷川がずっとカリカリしてたら後輩は萎縮するし、一人でなんでもできたらすごいのかもしれないけど、下が育たなかったら結局、自分の評価も下がるし」

「……うん」

「まあ、私は私のできることしかしないから、その範囲なら頼ってくれていい。無理ならちゃんと無理って言うから」

「うん。ありがと」

「いいよ。じゃ、エビセン買いに行こう。せっかくだし、長谷川も自分の分買いなよ。めちゃくちゃ美味しいから。私も買う」

「そうしようかな」


 長谷川は少し目を細めて、眩しそうにこっちを見た。

 とりあえず笑って返したら、長谷川は小さく息を吐いて立ち上がった。単に呆れられただけかもしれない。
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