鬼同期が家だとオカンだったし、その後スパダリに進化した
 翌日の昼時。

 メールを送り終えて伸びをしていたら、長谷川がこちらへやってきた。


「飯食おう」

「食べる!」


 差し出されたランチバッグには、弁当箱と小さい保存容器が二つずつ入っていた。


「まさか夜ごはんまで……?」

「一つは俺のだよ」

「残念……」


 一つ取り出して蓋を開けると、彩りのきれいなお弁当が現れた。

 ツヤツヤのごはんに、煮物……筑前煮かな。それから唐揚げにポテサラ、卵焼きまで入ってる!


「……おいくらでしょうか」

「えっ、いらねえよ。ご褒美だし」

「いや、これタダでもらっちゃダメなやつだよ」


 そう言うと長谷川が吹き出した。


「ウケる。どうすんの不味かったら」

「この見た目で不味かったら、それはそれで衝撃だけどさあ。えー、でもやだ、タダでは……デザートもあるんだよね?」

「あるけど。あ、じゃあココアスティックと抹茶ラテのスティックくれ」

「箱ごとあげるよ。ていうかこれも長谷川が買ってくれたやつじゃん」

「そんなにいらねえよ。食って、感想言って、『ごちそうさまでした』ってちゃんと言ってくれればそれでいい」

「そうなん……」


 引き出しからココアと抹茶ラテを取り出して長谷川へ渡し、自分の席に戻って手を合わせた。


「いただきます。……うわあ、美味しい!」

「だろー?」

「筑前煮おいしい! 味しみしみだし、タケノコ柔らかい! 私タケノコ大好き。しいたけも美味しいし、唐揚げも衣ザクザクだねえ。わ、卵焼きふわふわ。美味しい〜」


 いやもう、タダでもらっていいクオリティじゃない。美味しい。月五万払うから毎日作ってほしい。どうか一生サブスクお願いします……!

 ……昭和のプロポーズか?


 長谷川は困った顔で隣で同じものが入ったお弁当を食べていた。


「……そこまで褒められると、なんかむずがゆいな。嬉しいけど」

「ご希望とあらば三倍褒めるし月五万は出すよ」

「月? どれだけ作らせる気だよ。ほら、デザートも食え」

「オレンジ飾り切りしてある! ブドウまで入ってる!!」

「久しぶりにやったけど、なんかつい凝っちゃって時間かかったわ」

「プロの方……?」

「違うけど」

「すごいなあ、長谷川。食べるのがもったいない! でも食べる! 美味しい!!」


 もったいないとか言いながら、結局ぺろっと完食してしまった。

 いやー、すごいものをもらってしまった……。ちょっと掃除しただけなのに。


「とても美味しかったです。ごちそうさまでした」

「お粗末様でした」

「……これだけ歓声を上げてもらえると、作る甲斐があるわねえ」


 隣でお弁当を食べていた戸部先輩が苦笑していた。

 しまった、ここ会社だ。一人で大騒ぎしてしまった。


「すみません、騒がしくて」

「騒ぎたくなるくらい美味かったなら、戸部さんの言うとおり、作った甲斐あったわ」


 長谷川はちょっと嬉しそうな顔で、空になった弁当箱を回収していった。

 うーん、至れり尽くせりだ……。


「本当に付き合ってないのよね?」


 戸部先輩が小声で聞いてきた。


「ないですねえ」


 彼氏でもない男に、あんな立派な弁当を作らせて良かったんだろうか。

 今さらだけど、ちょっと申し訳なくなってきた。
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