鬼同期が家だとオカンだったし、その後スパダリに進化した
 そんな話をしているうちに、電車は目的の駅へ到着した。

 電車を降りてバスに乗ると、同じようにピクニックへ向かうらしい人たちがたくさん乗っていた。

 しばらくバスに揺られていると、窓の外には緑の多い景色が広がり、やがてゆるやかな上り坂が続き始める。坂を登り切ったところでバスを降りると、目の前にはグランピング場の入り口があって、バスから降りた人はみんなそちらへ流れていった。


「今どきのキャンプ場って便利なんだねえ」

「まあここは日帰りのグランピングがメインだからな」


 受付を済ませて予約したテントへ向かうと、テント自体はそれほど大きくない。でも広々としたデッキにはソファとテーブルが置かれ、その上には大きなタープが張られていた。


「おお……至れり尽くせりだ。想像してたキャンプと全然違う」

「テントの中に冷蔵庫と電子レンジまであるな。弁当は冷蔵庫に入れとくぞ」

「お願いします。わあ、眺めいいよ。丘の下まで見える」

「すげーな」


 丘の上からは林や小川、アスレチック広場、その向こうに連なる山並みまでよく見えた。

 陽射しはきついけど、丘を渡る風が穏やかで気持ちいい。


 ぐう、ビールがないのが悔やまれる。

 ないもんはないので、持ってきた炭酸水で喉をごまかし、まずはアスレチックに向かうことにした。


 アスレチックは大人向けのハードな作りだけど、普段からハイヒールで駆け回っているからか、スニーカーだと驚くほどすいすい進めて楽しい。

 気付いたら、長谷川がだいぶ遅れていた。


「長谷川ー大丈夫そー?」

「ちょ、待て、はえーよ」

「手え貸すよ」


 長谷川に向かって手を伸ばす。

 握られた手は想像していたより大きくて、力強くて、少し汗ばんでいて熱かった。心臓が変な音を立てる。


「悪いな」

「や、だ、だいじょぶ……」

「どした?」

「な、なんでもない! えっと、どうしよっか。この先まだアスレチックあるけど、大変そうだし散歩行く?」


 これ以上手をつないでいたら、どうしていいか分からない……だから話題を変えたのに、長谷川は私の手を握ったままコースガイドを見た。


「もうちょい行ってもいいけど……これ以上行くと戻るのが大変そうだし、ぼちぼち散歩しながら戻るか」

「そうしよう!」


 長谷川はアスレチックコースを外れ、遊歩道に向かって歩き出した。……私の手を握ったままで。

 いやいや!? 離して……?


「あの、長谷川さん?」

「ん?」

「な、なんで手えつないだままなの……?」

「んー」


 長谷川は前を向いたまま唸った。


「……周りにさ、手えつないでない人がいない」


 何言ってるんだ、と周りを見回したら本当だった。

 見える範囲はカップルに家族連ればかりで、みんな手をつないでいる。いや、逃げ出そうとしてる子供を捕まえてるだけの人もいるんだけどね?

 それに、周りがみんな手をつないでるからって、私たちまでつながなくてもいいんじゃないかな?


「立花は、手をつないでるの嫌?」

「嫌ってわけじゃないけど」

「ならいいだろ。戻って弁当食おうぜ」

「えっ、えー……?」


 長谷川は振り向いて目を細めて笑って、手をつないだまま歩き出した。

 ソファで並んでお弁当を食べたあと、また二人でスマホを覗き込みながら「キャンプ場での過ごし方」を調べる。


「あえてインドアかあ。いいねえ。こう、体動かして、お腹いっぱいになって、眠くなってきた」

「子供かよ。あー、焚火って手もあるな。そこに焚き火台あるし。……おい、寝るな。ちょっと付き合え」


 長谷川に連れられて受付まで向かった。受付横の売店で長谷川が買い物をするのを待ち、そのままテントへ戻る。


「俺は焚火してるから、立花は眠けりゃ寝てろ。適当に起こすから」

「ありがと、そうする」


 あくびが止まらなくなってきたから、テントの奥のベッドに横にならせてもらった。

 テントの入り口の方から、焚き火で温められた空気がゆるく流れ込んでくる。パチパチと火の弾ける音がして、炭の焦げる匂いが鼻をくすぐった。


 ……キャンプ、悪くないな。

***

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