鬼同期が家だとオカンだったし、その後スパダリに進化した
 結局午後は長谷川の顔を全然見られなかった。


 長谷川は


「疲れてるなら早めに上がれよ」


 と声をかけてくるだけだった。


 仕事も落ち着いていたから、言われたとおりに早めに切り上げた。

 帰宅してすぐ、お弁当箱を洗っておく。

 でも、ごはんを炊く気になれなくて、シャワーだけ浴びるとそのままベッドへ倒れこんだ。


「……いや、おかしいでしょ」


 だって、長谷川にキツい言い方を直させたのは私だ。

 長谷川はモラハラしなくなって、言い方が柔らかくなって、おかげで部署内の雰囲気が良くなった。

 紫くんや秦野ちゃんも怯えたり困ったりせずに長谷川を頼れるようになって、私の負担だって減った。


 なら、いいじゃない。


 嫌な奴だった同期が、穏やかな良い奴になって、後輩たちにも慕われている。いいことしかないのに、私はなんでこんなに悲しいの。

 矛盾してるでしょ。


「私、作ったものに『大丈夫』とか『自信持っていい』なんて言われたことないよ」


 大丈夫な出来じゃないって言われたら、ぐうの音も出ないんだけどさ。

 全然自信が持てるようなお弁当じゃないことくらい、私が一番わかっているはずなのに。


 長谷川は料理が上手で、部屋も綺麗だったから、きっと掃除や洗濯もちゃんとしているんだろう。仕事だって営業成績がいいから、偉い人たちからの覚えもいい。

 そして、言葉遣いと態度を改めたことで、後輩にも慕われるようになった。


 じゃあ、私は?

 仕事はまあいい。

 営業事務として、それなりにちゃんとしてきてると思う。営業の補佐がメインの事務職だから出世とかないけど、部署内では評価してもらえている。


 ……でも、それだけだ。

 ズボラでだらしなくて、掃除も片付けも苦手だし、洗濯だって仕事に行くからやってるだけ。

 料理なんて、長谷川に教わってやっと炊飯器を買うような有り様なのだ。


「ダメだな、私は」


 偉そうなこと言って、迷惑しかかけてないじゃん。


 お腹は空いているはずなのに、冷蔵庫を覗く気力も、ましてや料理をする元気なんてどこにもなかった。
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