鬼同期が家だとオカンだったし、その後スパダリに進化した

23.鬼同期と矛盾

 週明け、月曜日と火曜日は外出していたし、忙しくてお弁当を作れなかった。


 でも、水曜日は早く上がれたから、帰りにスーパーに寄って食材を買った。ついでに百均で小さいフライパンとサラダ油もゲット! これで土曜日に教わった卵焼きと鶏そぼろが作れる!

 気分良く帰宅し、シャワーを浴びてから料理した。お弁当に入らなかった分はそのまま晩ごはん。うん、長谷川には敵わないけど、私が作ったにしてはおいしい。



 翌日の昼はちょっとバタバタしていて遅くなってしまったけど、お弁当を温めるために給湯室へ向かった。


「あ、長谷川……」


 見慣れた背中を見つけて声をかけようとしたけれど、その先の言葉が出なかった。

 秦野ちゃんが、長谷川にお弁当を渡していたから。


「あの、どうでしょうか?」

「すごいな。全然大丈夫。自信持っていいと思う」

「本当ですか!? やったあ、頑張ったから、そう言ってもらえて嬉しいです!」


 長谷川の褒める声と、秦野ちゃんの弾んだ声が給湯室に響いていた。


 頭をガツンと殴られたような気がした。

 私、そんな風に褒められたことない。

 そりゃそうだ。

 全然できていないんだもの。

 顔が上げられない。

 シャツの裾を掴む自分の手と、使い込んで少しくたびれたハイヒールの爪先が視界の中で滲む。


「立花?」

「あ……」


 気が付くと、長谷川が給湯室から出てきて、入り口に立ち尽くしていた私を見ていた。秦野ちゃんは反対側のお手洗いの方へと向かって歩いている。


「どうした? 今から昼?」

「う、うん」

「弁当?」

「……うん」

「何作ったか見せろよ」

「長谷川に見せられるような立派なもの、作ってないよ」


 つい卑屈な言い方をしてしまうと、長谷川はおかしそうに微笑んだ。


「立花の料理の腕前くらい知ってる」

「……そうだよね」


 私はズボラで、だらしなくて、料理だって全然できない。

 秦野ちゃんみたいに、かわいくお弁当を差し出すことなんか、絶対にできない。


「立花?」

「あ、ごめん。なんでもない」


 とぼとぼと給湯室の冷蔵庫を開け、お弁当箱を取り出す。

 電子レンジで温めている間も、長谷川は隣に立ったまま私を見ていた。


「立花、具合悪い?」

「そんなことはないよ」

「元気ないけど」

「……ちょっと、忙しいだけだよ」

「そう? 無理すんなよ」


 電子レンジからお弁当箱を取り出した。

 執務室の自分の席につくまで、長谷川は当たり前みたいについてきた。


「なんで隣に座るのさ」

「弁当見せろって言っただろ」

「見せるとは言ってないよ。長谷川は私が全然料理できないの知ってるじゃん」

「知ってる。できないのに頑張ってるのも知ってる」


 なにそれ。そんな優しいこと、優しい声で言わないでほしい。

 顔を上げられないまま、弁当箱の蓋を開けた。

 ごはんに鶏そぼろと、うまく巻けずにぐしゃぐしゃになった卵焼きを載せただけの、美味しそうでもなんでもない茶色いお弁当。


「全然うまくできない」

「そう? そぼろと卵焼きならこんなもんだろ」


 私はこんなにも卑屈になっているのに、長谷川がそれをさらっと流すのも本当にムカつく。

 褒められるような出来じゃないことくらい、私が一番わかっているのに。


「長谷川は昼は?」

「さっき食った」


 秦野ちゃんが渡していたお弁当のことかな。


「おいしかった?」


 よせばいいのに、つい聞いてしまった。

 そんなこと聞いて、私はどうしたいのさ。


「うん、うまかった」

「……そうだよねえ」


 そんなこと、聞かなくたって分かっていたのにね。

***

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