鬼同期が家だとオカンだったし、その後スパダリに進化した
 スマホをベッドに投げて、台所に向かった。

 水を飲んで、台所を眺める。


 ここ半年で、ずいぶんものが増えた。紫月に言われて買った弁当箱代わりの容器、調味料、お皿やカトラリー。

 冷蔵庫にはお米と調味料が入っている。かわりにお酒はずいぶん減った。残ってるのは親が送ってくれたいいワインくらいだ。


 そういえば、紫月はあんまり飲まないんだっけ。ちょっと残念。でも、このワインに合うもの作ってって言えば、はりきって美味しいものを作ってくれそうだ。せっかくだから、ワイングラスは二脚用意しようかな……いや、気が早いか。まだ誘ってもいないし、ワイン好きかも聞いてない。


 なんか私、冷蔵庫の中身を紫月と一緒に食べる前提で考えてる。さっき付きあおうかって話になったばかりなのに。

 冷蔵庫を閉めて、頭に乗ったままだったタオルを洗濯機に突っ込んだ。カバンに入れっぱなしにしていた、紫月に借りたハンカチも一緒に入れようとして手を止めた。

 顔を寄せると、私が使っている洗剤とは違う匂いがふわりとした。

***

 洗面所で歯を磨いていたら、鏡に映る自分の顔がすごく緩んでいた。


 そういえば、酢の物の素を明日買いに行こうって話したっけ。じゃあ起きたら連絡してみようかな。

 酢の物と、あと何を作ろうか。

 私でも作れそうなものを、また一緒に作りたいな。

 今度またグランピングに行くなら、キャンプメニューも聞いてみたいな。料理の話をする紫月は楽しそうだから。

 うがいをして歯ブラシとコップを片付けた。




 部屋の明かりを消してベッドに転がった。

 シーツがエアコンの風を浴びてひんやりしている。

 もう一度スマホを見たけど、なんの通知も来ていなかった。充電器に繋いで伏せておく。

 私もベッドに突っ伏して、枕に顔を埋めた。


 暗い中でウトウトしていると、どうしても今日あったことが頭に浮かんでしまう。

 泣いた顔を拭ってくれたハンカチ。繋いだ大きな手。別れ際のひんやりした空気感。

 あの手は、安心したな。

 触れたのはグランピングのアスレチックで手を貸した時と、今日の散歩の二回だけで、どっちも三十分もなかったけど。


 あんなちょっとしか繋いでいなかった手の温度のことを、私は眠る直前まで考えていた。
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