鬼同期が家だとオカンだったし、その後スパダリに進化した

28.鬼同期と暗い部屋

 壁の向こうから音が聞こえなくなってから、私も靴を脱いだ。靴が落ちる音がやけに響く。

 さっきまで隣に紫月がいたのに、一人になった途端、いつもの部屋が急に広く感じた。


 エアコンをつけてぽつんと立っていると、急に肌寒くなってきた。カバンを置いて風呂場に向かう。

 いつもはシャワーで済ませるけど、今日はゆっくりしたいから、服を脱ぐ間に浴槽にお湯を溜めた。


 体をさっと洗って湯船に浸かると、温かさが身に沁みた。……なのに、なんとなく手のひらの方が温かい気がする。


 手をグーパーした。

 紫月の手、大きかったな。

 そりゃ男の人だから、私より大きくて当たり前なんだけどさ。


「俺さ、美颯の『いいよ』に救われたんだ」


 さっき、手をつなぐ前に紫月が言っていた言葉がふと浮かんだ。

 私が「いいよ」と仕事を引き受けるのは、別に特別なことじゃない。誰にだってそうしているし、できることはするけど、できなければ全然断ることだってある。

 だからそれが誰かにとっての「救い」になるだなんて、想像したこともなかった。

 でも、悪くない。そう感じていること自体、意外だけど……紫月があんな真剣な顔をしていたのも、その顔を引き出したのが私だったことも……ダメだ、落ち着かない。


 いつの間にか長風呂してしまって、のぼせそうになってきたから、風呂から上がった。



 パジャマにしているシャツとハーフパンツを着て、髪を乾かす。


 タオルを頭に乗せたままスマホを手にして、紫月の名前に触れた。

 「おやすみ」と打って、少し考えてから消す。

 いや、さっき口で言ったし。何してるんだ、私は。ついスマホを見て、通知が来ていないか確認しちゃう。何も送ってないんだから、連絡なんて来るわけないのに。

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