鬼同期が家だとオカンだったし、その後スパダリに進化した
 ……でも、帰りに本屋には行けなかった。

 本屋が開いている時間に帰れなかったからだ。


「ぐう、終わったけど、本屋やってない……」


 悲しい。紫月の方もまだまだ帰れそうにないし。


 パソコンを閉じて立ち上がった瞬間、スマホが震えた。

 表示されているのは紫月の名前だ。


『おつかれ。気をつけて帰れよ』


 紫月の方を見たら、向こうもなんとも言えない顔で頷いていたから、さっさと帰ろう。


 途中でスーパーに寄って、今度こそ海苔とラップを買った。ついでに鮭フレークとふりかけも。

 帰ってすぐにごはんを炊いて、その間に風呂と洗濯を済ませる。

 洗濯を干したところでごはんが炊けたから、全部おにぎりにした。

 二つほどお弁当箱に詰めて、今食べる分以外は冷蔵庫に入れておく。冷凍唐揚げを温めて、半分はお弁当箱に入れて残りはおにぎりと食べる。


「……野菜も食べたいんだけどなあ」


 でも帰ってから野菜を切るのが面倒だ。

 おにぎりを食べながらスマホで調べていたら、カット野菜に行き当たった。ドレッシングをかけてもいいし、浅漬けの素に漬けてもいいらしい。袋を開けるだけで食べられるのはかなり魅力的だ。てことはきっと、酢の物の素に漬けてもいいんだろう。よし、明日買ってこよう。その流れで海藻サラダなる乾物も発見したから、それも明日探してみよう。


 ふと思い立って、目の前に残っていたおにぎりと唐揚げの写真を撮った。

 紫月に送ると、一瞬で既読がついて、電話がかかってきた。


『俺にも食わせて』

「いいけど、今どこにいるの?」

美颯(みはや)の部屋の前』

「ちょ、待って、開ける」


 慌てて部屋のドアを開けたら、くたびれた様子の紫月がスーツ姿のまま立っていた。


「何リカちゃんみたいなことしてるのさ」

「リカちゃん?」

「そういう怪談。おにぎりいくつ?」

「三つ」

「わかった。温めておくから、シャワー浴びておいで。唐揚げは?」

「五個」

「任せといて」


 紫月が自分の部屋に戻ったのを見送って、冷蔵庫からおにぎりと唐揚げを出してくる。それぞれ温めて、自分の晩ごはんの残りを食べ終えたところでスマホが震えた。準備ができたらしいので、皿を持って紫月の部屋に向かった。


「へい、お待ち」

「やばい、めっちゃ嬉しい。味噌汁いる? レトルトだけど」

「いる」


 向かい合ってごはんを食べながら、紫月の愚痴を聞いた。

 一緒に担当している料亭の案件で、私が帰った後にひと悶着あったらしい。


「本当にさあ! 今! 言うな!!」

「まあ、あるあるっちゃあ、あるあるだけどね。明日手土産持ってお伺いしようね」

「悪いな、巻き込んで」

「はあ? 私も担当ですけど?」

「そうだった。頼もしいなあ」

「そうかなあ」


 今のところ、特に何もできてないんだけど。


「完璧な資料を用意してくれて、愚痴れば聞いてくれて、一緒に立ち向かってくれて、疲れて帰ったら温かいおにぎりを出してくれる。頼もしい以外のなんなんだよ」

「酔ってんの?」

「飲んでねえよ、感謝してるんだ」

「ふふ、ありがと」

「そういうとこだよ!」


 紫月はおにぎりと唐揚げ、味噌汁をペロッと平らげると、食器を片付け始めた。

 食べ終わったらすぐに片付けて偉いなあ。私なんか、シンクに皿は置きっぱなしだし、炊飯器もそのまんまだし。


「じゃあ、私台所散らかしっぱなしだから帰るね」

「悪い、急に呼び出したから」

「ううん、頼ってくれて嬉しかったよ。また明日ね」

「……送る」


 玄関で靴を履いたけど、紫月はドアに手をついたまま開けなかった。何かと思って振り返ると、紫月は困ったような顔で私をじっと見ていた。

< 75 / 79 >

この作品をシェア

pagetop