離れた後の恋の仕方
◇再会
タクシーがどんどん目的地に向かうたびに俺の心臓は緊張と不安が入り混じり、何度も唾を飲み込む。
『行きなよ』
行きつけのBarのマスターである三斗(みと)から背中を押され、5年ぶりに“凄く大切な人”に会いに行くけど会ったらどんな風になるか…、きっと一発はお見舞いされることは確実だ。
俺の都合で離れ、その間の5年は一切の連絡はせずに過ごしていたけれど、それでもずっと好きだという気持ちが続いてる。
『高坂専務の事が好きなんです』
『高坂さんの事をもっと知りたくて』
四つ葉の女性社員達からの告白や、親(主に母親)が勝手にセッティングした見合い相手との気乗りしない食事でいつも言われるけど、決まってこう言って断っている。
『“凄く大切な人”がいるからご免なさい』
新しい恋なんてする気も無いし、恋をするならたった1人しかいないけど、もし隣に誰か立っていたら…、いや、彼女の性格は出会った時から知っているから大丈夫だと確信している自分に笑っちゃうな。
今日スポーツ部の全員で“社会科見学”をして、その帰りに今年入社した宝条さんを南◯駅まで車で送り届けるために走行していたら、“凄く大切な人”が働いている荒木不動産屋が見え、運転中だったけど彼女がどうしているか気にはなっていた。
『高坂専務はデートするお相手とお出かけしないんですか?』
宝条さんの言葉を聞いて、その時は相手はいないけど“凄く大切な人”はいるよって答え、徐々に俺の心に彼女のことが広がっていったな。
その後はファッション部の編集長である水瀬の誘いで行きつけのBarでご飯を食べ、水瀬から連休中のお土産を貰い、水瀬が先に帰った後にまたご飯を食べていたら三斗から彼女に会いに行くよう背中を押され、今に至る。
水瀬から貰った手土産を口実に会いに行くことになり、やがてタクシーが荒木不動産屋の前に到着し、お会計をして降りた。
荒木不動産屋の看板を見上げると懐かしさが込み上げてきて、ここに来るのも5年が経ったなと思い、大きく息を吸ってふぅと吐き、右手で荒木不動産屋の入り口のドアを開いて中に入る。
「すいません、もう営業は終わー…」
中に入ったら1人の女性が青い綴じファイルを持ちながら俺の方に振り返り、俺を見て目を見開いて言葉が途中で終わって、5年経ってもその可愛い姿は変わっていないなと思う。
「久しぶり」
俺は何とか言葉を出して右手を上げると、その女性は青い綴じファイルを両腕でギュッと抱きしめる。
「ど…、どうしてここに来たの?」
「もう一度、俺と恋をしない?」
俺がそう言うと、その女性はつかつかと俺の方に歩いてきて青い綴じファイルを右手で持って思いっきり振り、その角が俺の左側の唇の端にガッと当たり、その音は部屋の中に大きく響いた。
避ける事は簡単だけど避けなかったのは、その女性がそれですっきりするなら受け入れる気持ちでいたから。
その女性がはぁはぁと息を整え、俺はそっと女性を抱きしめると、ああ、5年経ってもこの感触は変わってなくて、より抱きしめる力を強くした。
「離れてご免。離れた分を上書きするから、覚悟して」
女性の耳元でそうはっきりと気持ちを伝えると、青い綴じファイルが落ちた音が聞こえ、女性が俺の背中に手を回し、お互いの距離が近くなる。
「ねぇ、一美」
5年ぶりにその女性の名前を呼ぶと、一美は顔をパッと上げ、瞳はとても潤んでいる。
「水瀬から貰った手土産、食べる?一美の好物だって、三斗から教えてもらったんだ」
「………食べる」
「良かった」
俺はほっとして腕の力を弱めると、一美が荒木不動産屋の入り口に“準備中”という札を出して、入り口上にあるシャッターを下ろし、俺の方に振り返り青い綴じファイルを拾い上げた。
「綴じファイルの角でぶたれて痛いでしょ?」
「いーや、一美の心に比べれば」
「その言い方、稔らしい」
一美は苦笑し、店内にある棚に向かい、そこから小さな箱を手に取ってガーゼと消毒液を取り出した。
「こっちに座って」
「ああ」
一美に手招きされて端っこにある椅子とテーブル席に行き、お互い其々の椅子に座って俺は一美から唇の左側に出来た傷の手当てを受ける。
ちょ〜と消毒液が染みて痛いけど、さっきも言ったように一美の心の傷に比べればマシだ。
「格好いい顔が台無しね」
「一美のその言い方も変わってないな」
「そう?」
「うん。変わってない」
お互い笑い、俺は水瀬からの手土産の袋から箱を取り出して机の上に置いた。
「俺が帰ってから食べて」
「そうする。もうすぐお父さん達が帰ってくるし、お母さんの左手が飛んでくるからその前に帰った方が良いわ」
「わぉ、それはヤバいな」
俺は椅子から立つと一美も一緒に椅子から立って入り口に向かい、2人でシャッターを上げて俺はドアを開けた。
「一美の電話番号ってそのまま?」
「そのまま」
「また連絡するから」
「うん…、待ってる」
それじゃあとお互い手を振って俺は荒木不動産屋を出て、南◯駅まで歩いて向かう。
歩きながら5年ぶりに“凄く大切な人”に再会が出来たのが嬉しくて、青い綴じファイルでぶたれた痛みなんて感じないし、気持ちはとても満たされながら実家に帰った。
『行きなよ』
行きつけのBarのマスターである三斗(みと)から背中を押され、5年ぶりに“凄く大切な人”に会いに行くけど会ったらどんな風になるか…、きっと一発はお見舞いされることは確実だ。
俺の都合で離れ、その間の5年は一切の連絡はせずに過ごしていたけれど、それでもずっと好きだという気持ちが続いてる。
『高坂専務の事が好きなんです』
『高坂さんの事をもっと知りたくて』
四つ葉の女性社員達からの告白や、親(主に母親)が勝手にセッティングした見合い相手との気乗りしない食事でいつも言われるけど、決まってこう言って断っている。
『“凄く大切な人”がいるからご免なさい』
新しい恋なんてする気も無いし、恋をするならたった1人しかいないけど、もし隣に誰か立っていたら…、いや、彼女の性格は出会った時から知っているから大丈夫だと確信している自分に笑っちゃうな。
今日スポーツ部の全員で“社会科見学”をして、その帰りに今年入社した宝条さんを南◯駅まで車で送り届けるために走行していたら、“凄く大切な人”が働いている荒木不動産屋が見え、運転中だったけど彼女がどうしているか気にはなっていた。
『高坂専務はデートするお相手とお出かけしないんですか?』
宝条さんの言葉を聞いて、その時は相手はいないけど“凄く大切な人”はいるよって答え、徐々に俺の心に彼女のことが広がっていったな。
その後はファッション部の編集長である水瀬の誘いで行きつけのBarでご飯を食べ、水瀬から連休中のお土産を貰い、水瀬が先に帰った後にまたご飯を食べていたら三斗から彼女に会いに行くよう背中を押され、今に至る。
水瀬から貰った手土産を口実に会いに行くことになり、やがてタクシーが荒木不動産屋の前に到着し、お会計をして降りた。
荒木不動産屋の看板を見上げると懐かしさが込み上げてきて、ここに来るのも5年が経ったなと思い、大きく息を吸ってふぅと吐き、右手で荒木不動産屋の入り口のドアを開いて中に入る。
「すいません、もう営業は終わー…」
中に入ったら1人の女性が青い綴じファイルを持ちながら俺の方に振り返り、俺を見て目を見開いて言葉が途中で終わって、5年経ってもその可愛い姿は変わっていないなと思う。
「久しぶり」
俺は何とか言葉を出して右手を上げると、その女性は青い綴じファイルを両腕でギュッと抱きしめる。
「ど…、どうしてここに来たの?」
「もう一度、俺と恋をしない?」
俺がそう言うと、その女性はつかつかと俺の方に歩いてきて青い綴じファイルを右手で持って思いっきり振り、その角が俺の左側の唇の端にガッと当たり、その音は部屋の中に大きく響いた。
避ける事は簡単だけど避けなかったのは、その女性がそれですっきりするなら受け入れる気持ちでいたから。
その女性がはぁはぁと息を整え、俺はそっと女性を抱きしめると、ああ、5年経ってもこの感触は変わってなくて、より抱きしめる力を強くした。
「離れてご免。離れた分を上書きするから、覚悟して」
女性の耳元でそうはっきりと気持ちを伝えると、青い綴じファイルが落ちた音が聞こえ、女性が俺の背中に手を回し、お互いの距離が近くなる。
「ねぇ、一美」
5年ぶりにその女性の名前を呼ぶと、一美は顔をパッと上げ、瞳はとても潤んでいる。
「水瀬から貰った手土産、食べる?一美の好物だって、三斗から教えてもらったんだ」
「………食べる」
「良かった」
俺はほっとして腕の力を弱めると、一美が荒木不動産屋の入り口に“準備中”という札を出して、入り口上にあるシャッターを下ろし、俺の方に振り返り青い綴じファイルを拾い上げた。
「綴じファイルの角でぶたれて痛いでしょ?」
「いーや、一美の心に比べれば」
「その言い方、稔らしい」
一美は苦笑し、店内にある棚に向かい、そこから小さな箱を手に取ってガーゼと消毒液を取り出した。
「こっちに座って」
「ああ」
一美に手招きされて端っこにある椅子とテーブル席に行き、お互い其々の椅子に座って俺は一美から唇の左側に出来た傷の手当てを受ける。
ちょ〜と消毒液が染みて痛いけど、さっきも言ったように一美の心の傷に比べればマシだ。
「格好いい顔が台無しね」
「一美のその言い方も変わってないな」
「そう?」
「うん。変わってない」
お互い笑い、俺は水瀬からの手土産の袋から箱を取り出して机の上に置いた。
「俺が帰ってから食べて」
「そうする。もうすぐお父さん達が帰ってくるし、お母さんの左手が飛んでくるからその前に帰った方が良いわ」
「わぉ、それはヤバいな」
俺は椅子から立つと一美も一緒に椅子から立って入り口に向かい、2人でシャッターを上げて俺はドアを開けた。
「一美の電話番号ってそのまま?」
「そのまま」
「また連絡するから」
「うん…、待ってる」
それじゃあとお互い手を振って俺は荒木不動産屋を出て、南◯駅まで歩いて向かう。
歩きながら5年ぶりに“凄く大切な人”に再会が出来たのが嬉しくて、青い綴じファイルでぶたれた痛みなんて感じないし、気持ちはとても満たされながら実家に帰った。