八年越しの初恋、回収します。〜私のトリコになった部下に、八年前から溺愛されています〜



※

四月吉日。

私たちは晴天に恵まれた。

日差しを浴びると、春の温かさが心地よく感じられる。

式場にはミモザやピンクのチューリップ、鮮やかな緑が飾られ、会場をより春らしく演出してくれていた。

花嫁の控室。

私は姿鏡の前で、ウェディングドレスの最終チェックをしてもらっていた。

これは祐二と一緒に選んだドレスだ。シルクで仕立てられた、純白のドレス。

(生地がシルクなだけに、光沢が美しい……)

着ている本人でも見惚れてしまうほどだ。

コンコンと戸を叩く音がして、「どうぞ」と返事をする。

戸がカチャリと開いた。

満面の笑みを浮かべた李人が入ってきた。

「姉さん、おめでとう!」

まだ二ヶ月しか離れていなかったのに、黒いスーツを着こなす李人が、一回りも二回りも大きく見えた。
再会が嬉しくて、私はすでに涙が溢れそうだった。

「李人! おかえり!」

私はゆっくりと立ち上がった。

その後ろから、祐二も一緒に入ってきた。

「まさか、こんなに早く結婚するとは思わなかったよ!」

頬を上気させて、李人が喜んでくれる。

「うん。私も驚いている……」

すると李人が、私のウェディングドレスを見回し、不思議そうな顔をした。

「ドレスはとても綺麗だね。だけど、なぜそんなに肌を隠すの?」

当然の疑問だ。

ウェディングドレスには、背中やデコルテ、腕などを露出するデザインもある。
しかし、私はそれを選ぶことができなかった。

なぜって、

「私が肌見せ禁止令を出したからです」

私の夫、祐二が肌の露出を極力抑えたデザインを推したからである。
だから私のドレスは、ハイネック、長袖、ロング丈。露出は顔と両手のみだった。

李人が「へ?」と呆気にとられる。

祐二はそんな李人に気づくことなく、ニタリと悦に入っていた。

「瞳子さんの透き通る肌は僕だけのものです。参列者の見世物になる必要はありません」

ついに祐二の異常性が、李人にばれる時が来た。

李人は口を半開きにして、祐二を見つめている。
ところが。

「義兄さん……わかります、その気持ち!! 大好きだから僕だけのものってなりますよね!」

(わかるの? 李人もそっちなの?)

李人の祐二を見る目が、尊敬の眼差しになっている!

「その通りです。さすが僕の弟、気が合います」

二人は顔を見合わせ、ニコニコと笑っている。

この二人、前世では兄弟だったのかもしれない。そう思わせるほど、親和性が異常に高い!

でも、それが今でも私の安心につながっている。
そんな二人を見て、私も笑みがこぼれた。

コンコン。
再び戸を叩く音が聞こえた。

ここは新婦の控室。私には親族がいない。
誰だろうと不思議に思っていると、李人が戸を開いた。

現れたのは──朝倉美麗、私の義理の母!!

しかも、その服装に一同が驚愕する。

白のハイネックシャツの上に若草色のハンティングジャケット、ぴったりとフィットするパンツにニーハイブーツ!!

(結婚式に欧州貴族の狩猟服⁉)

美麗さんは手を腰に置き、仁王立ちしている。
その姿が様になっていた。

「母上⁈ 息子の結婚式になんという服装ですか!」

間髪を入れずに、祐二が美麗さんに突っ込んだ。

美麗さんは、なぜか嬉しそうに笑った。

「これが私の真骨頂だもの。主役が地味なのよ」

私を下げることも忘れていない。

(女帝の復活だ!)

私はなぜか嬉しくなってしまう。
美麗さんのこの憎まれ口を聞くと、なんだか安心する。
美麗さんの生命力が復活している。

どんな形であれ、家族に関心を持たれることが、美麗さんにとって生きる活力になるのだ。

まさに、憎まれっ子世に憚る!

「お義母さんも元気で何よりです」

私がそう言うと、美麗さんは笑った。
アイライン、深紅の紅にも負けない、あの顔で。

「ふふ。私はまだくたばらないわよ」

「母上! また何か企んでいるのですか? 今日は私たちの結婚式なんですから、大人しくしていてくださいっ」

祐二が焦るほど、美麗さんは楽しそうに頬を上げる。

「朝倉家の事業は息子にくれてやって、清々しているの。これからは自分の好きなように生きる。黒川」

「はい」

美麗さんの後方から、黒川さんが進み出た。
燕尾服の内ポケットから、一枚の写真を取り出す。
その写真には、不透明な白色で光沢のある石が写っていた。

それを見た祐二が、あっと驚いて顔を上げる。

「まさか、これはっ……見つけたのですか?」

「なんですか、これ?」

私が訊ねる。

美麗さんが不敵な笑みを浮かべて口を開いた。

「歴代中国王朝の秘宝、羊脂白玉(ようしはくぎょく)よっ!」

「まさかっ」

祐二が驚愕するということは、歴史的に価値が高い骨董品なのだろう。

有名日本画家の未発表作品を発見した美麗さんだ。この人の骨董品ハンティングの嗅覚は、なんと並外れているのだろう。

「昔、父と中国で探し回っても見つけることができなかった。あれから東南アジアで重大な情報を掴んだの」

「探しに行くのですか?」

「アンティークハントに出るわ! 蒐集家、鳳美麗の名に懸けて、必ず見つけ出す!!」

自信と自尊心を取り戻した美麗さんの顔は、生き生きとしていた。

祐二はいささか動揺している。

「こ、これからですか?」

「式が終わってからよ。その足で直行よ!」

この人は、規格外の発想と行動力を持っている。
私はワクワクしてしまう。

「お義母さん、素敵です! 精一杯、楽しんできてください!」

そんな私を、美麗さんがじっと見つめてきた。

「でも……最後の仕事をしないとね」
「え?」

「瞳子さん、朝倉家に生半可な優しさは要らない。この家に必要なのは、実務能力のみ!!」

「実務……ですか?」

「これから関係者にご挨拶回りをしてもらうわ。当然、リストは頭に入っているでしょうね?」

腕を組みながら、私を覗き込む美麗さん。

「はい。もちろんです。顔と名前、所属会社に役職、趣味。リスト情報は完璧に覚えてきました」

「よろしい。今後も朝倉家のために、骨身を惜しまないことね。では、後ほど」

ほほほっと高笑いをしながら、美麗さんと黒川さんは部屋から退室した。

「瞳子さん、あまり気負わないでくださいね」

祐二がそう気遣ってくれた。
だけど、朝倉祐二と結婚するなら、覚悟を決めないといけない。

それが、美麗さんからのメッセージなのだと思った。

「私は美麗さんを驚かせたいから、やってやるわよ」

「瞳子さんがそう言ってくれると、僕も嬉しいです」

彼がそう言って笑ってくれる。
それだけで、今が幸せなのだと実感できる。

雨降って地固まる。

すべての憂いは晴れ、私たちは大団円へと向かっている。






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