お試し婚のはずが、いつの間にか溺愛されています!~二度も婚約破棄された外科医は受付事務員に愛を捧ぐ~
まさかのトラブル発生!
 寒さが厳しかった冬が過ぎ去り、城高山記念病院の正面玄関前にある桜の木の蕾が膨らみ始めた。

 私、勝浦小春(かつうらこはる)は大学卒業後から城高山記念病院の医療事務課に勤務してから、早いものでもうすぐ六年目になる。
 先日、事務長から主任に推薦しておいたと話があったばかり。辛いことも多々あったけれど頑張ってきてよかったと心底思う。

「すみません……」
 診療の受付時間と診察時間もすでに終わっていて、会計待ちだけの人が残っているはずの夕方十六時過ぎ、遠慮がちにかけられた声に顔を上げる。

「あっ、片山さん! お久しぶりです」
 カウンターの向こうに立っていたのは見覚えのある男性で、その横には女性も居る。
 入退院の受付事務担当の時、二ヶ月後に結婚式を控えていた矢先の彼が瀕死の状態でこの病院に運ばれてきた。彼が倒れた時に一緒に居た彼女は、彼のご両親が入院の手続きをしている中、隣に座り震える手で祈っていた姿を私は今でも覚えている。

「城高山先生には大変お世話になりました」
 そう言って、彼は深く頭を下げる。そして、少し照れたように微笑みながら、「無事に結婚式を挙げることができました」と続けた。
 あの時、死ぬか生きるかの境目にいた人が、こうして目の前に立っている。その事実だけで胸がじんわりと温かくなり、私は自然と微笑んでいた。

 城高山壱知(しろたかやまいち)先生は心臓外科を専門とし、かつてはアメリカの大学病院にも勤務していた。心臓外科が専門の、この病院の院長の跡取り息子でもある。
 目鼻立ちがはっきりしている綺麗な顔立ちに高身長、経歴も文句なし、患者やスタッフにも優しい城高山先生は、老若男女問わずに人気だ。

「城高山先生がお手隙ならば、お礼を言いたいのですが……」
「今、連絡を取りますね。少々お待ちくださいませ」
 私は元患者が訪ねてきていることを伝えようと、院内用の城高山先生のスマートフォンに電話をかけた。だが、呼び出し音は虚しく鳴るばかりで、いくら待っても出ない。
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