地元なじみ。
「私……早川くんの浴衣姿すごい好きみたい」
「……ん」

早川くんは恥ずかしそうにしながら、私の頭をポンポンとなでる。


「まぁ……その言葉、そのまま返すけど」
「え?」

早川くんがなでていた手をそのままおろして、私の髪の毛を1束、すくうように触れる。


「浴衣……可愛い」


数メートル先の大通りの車の往来がウソのような静けさ。
一生懸命に伝えてくれる早川くんが愛おしい。

「俺が今日変だった理由もう一つあって」
「え?」
「浴衣のこと伝えなきゃってずっと思ってて。言おうとして藤沢の方見て……何かすごい可愛くて。見とれて何も言えなくて……を繰り返して……ました」

恥ずかしいのか、最後は顔を伏せるように私の肩へもたれかかった。


何のご褒美なのだろう。
嬉しくて抱きしめたい気持ちにかられる。

けれどここは外。
わずかにある冷静な気持ちで、片手で早川くんの腰にそっと触れるにとどめる。


「その浴衣……前に俺が紺色って言ったから?」
「……覚えてたの?」

「紺も似合うんじゃない」という、2年前の花火大会の時の早川くんの言葉。
嬉しくてこの2年間ずっと心にあった言葉で。

今年は紺色に紫やピンクのお花模様が描かれた浴衣を着てきた。

そんな私の中で特別な浴衣を、早川くんも分かっていてくれたことがすごく嬉しい。

「そりゃまあ……紺が好きとかじゃなくて、藤沢に似合うと思ったから言ったし」
「あの言葉すごい嬉しくて……紺の浴衣いっぱい探したの」
「うん。やっぱり似合ってる」


私の髪をなでながら、また早川くんの顔が近づいてくる。


けれどその瞬間、人の声が聞こえてきた。


「……やっぱり今はダメか」
「ふふっ」

顔を離し、見つめ合って笑い合う。


さっきまでの不安な気持ちも飛んでいって、もっともっと好きの気持ちが大きくなる。


2年前の花火大会の時には、こんな日が来るなんて想像もしなかった。

そして、2ヶ月前の付き合えた時には、こんな気持ちが生まれるとは思わなかった。
キス出来ないことで残念な気持ちになるなんて。


手を繋いで再び歩き出す。
やっぱりヒグラシの鳴き声が聞こえてくる中、夏の一番の約束の日がもうすぐ終わろうとしている。
< 171 / 189 >

この作品をシェア

pagetop