御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
04 契約結婚のはじまり
 彼からの縁談を承諾してから、さくさくと結婚の準備が進んだ。
 結婚式は挙げず、書面だけの提出になるからこんなものなのかもしれない。
 いつか両親を呼んで結婚式を……と思っていたけれど、九条さんと本物の夫婦になるわけではない。
 私はあくまでお飾り妻だ。私は父の会社への出資を、彼は体よく見合いを断るための妻を手に入れる。
 今回の結婚には愛がない。少なくとも、彼からの愛はない。だから、私も気持ちに蓋をする。
 この結婚は父と会社のためだと割り切ることで、なんとか折り合いをつけたつもり……だったのに。



「それじゃあ、行きましょうか。千尋さん」

 荷物がなくなって、がらんどうとした部屋に九条さんがやってくる。
 引っ越しの手配はすべて彼がやってくれて、1LDKの部屋には彼と私しかいない。
 彼は休日にもかかわらず、かっちりとしたスーツを着ていた。よくよく見ると、薄くストライプが入り光沢がある。
 一張羅、とでも言うべきか。いつも以上に、彼のスタイルの良さと素材の良さを引き立たせていた。

「お休みの日でもスーツなんですか?」
「いえ、いつもは違いますよ。でも今日は、あなたを迎えに来る日だから」

 さらりとそんなことを言われてしまっては、蓋をしていた気持ちが顔を出してしまう。
 私のためにめかし込んだ、と受け取ってもおかしくない言い方にむず痒い気持ちになった。

「えっ、えっと……、とても似合ってます」
「ありがとうございます」
「あっ……私、忘れ物がないか見ますね」

 最後に靴箱や棚の中に忘れ物がないかを確認する。何もないことを目視でチェックしたあと、アパートの一階に降りた。
 安いアパートの下に一目でわかる高級外車が停まっているのは滑稽で、だけど彼が運転席に乗り込むと一瞬で映画のヒロインみたいな気分になるから不思議だ。
 ちらりと後部座席をみたら花束が置かれていて、私の視線に気付いた彼が照れくさそうに笑った。

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