御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
 何か言われただろうかと、会話のやり取りを振り返る。だけど衝撃的なことが多すぎて、なにを言われたのか思い出せない。

 首を傾げて彼から答えを引き出そうとする私をよそに、九条さんは笑みを浮かべると、思い出さなくていいです、と素っ気ない態度でタクシーの扉を閉めた。

 ――なにを言われたんだっけ……。

 手っ取り早くお見合い話を断る口実に契約妻がほしい、という旨を言っていた気がする。
 その相手は、できれば平凡な家柄の娘がいいこと。そのほうが、契約結婚をするにあたりちょうどよいとも言っていた。

 ――相手が九条さんだと知って、嬉しかったのに。

 あくまでそれは私だけで、彼は私のことを恋愛対象には見ていないのだろう。そうでなければ出資を条件に娶るなどと言い出さないはずだ。彼はあくまでわ私という便利な妻役がほしいだけ。

 そうわかってはいても、彼との結婚生活を想像したら居ても立ってもいられない。
 あの場では平然をよそっていたけれど、今にも心臓が破裂しそうだった。エスコートされて手を握ったときも、自分の行動がおかしくなかったか不安になるほどには緊張していた。

「こんな状態で、九条さんと結婚生活なんてできるのかな……」

 彼は私の気持ちを知らない。だから契約結婚が成り立つとも言える。

 もし、この気持ちを彼に知られてしまったら、出資のことも破談になるかもしれない。

 ――絶対に、この気持ちは隠し通さなければ。

 そう心に決めて、後日私は彼との婚約を了承したのだった。
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