御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
 確かめるように近付く彼に寝たフリをするのも忘れて、私は布団を頭からかぶった。

「やっぱり寝てない」
「……試したんですか?」
「いや、千尋が寝ているか確かめただけだよ」
「同じじゃないですか……」

 彼がおかしそうに笑って、布団の中に潜り込んでくる。
 ベッドは広いのに、なぜか彼は距離を取るでもなくど真ん中に寝転んだ。

「どうして真ん中で寝るんですか……」
「どうしてって、いつもの定位置だし……。あ、夫婦らしく、もっと近いほうがいい?」
「そんなこと言ってません……!」

 からかっているのか、彼が声を殺して笑っている。
 意地悪な人ではないと思っていたけれど、そうでもないのかもしれない。よく、バーの店主と軽口を叩き合っているくらいだから。

「ごめん、千尋の反応があまりにも可愛くて、つい」
「私に可愛らしさなんてないです」
「そう? 俺は、そうは思わない」

 本気なのか冗談なのかわからないトーンで言われて、返答に困ってしまう。
 彼はベッドの端に体を寄せると、もっと真ん中においで、と私を手招きした。

「そんなに端っこだと落ちる」
「大丈夫ですよ……。たぶん」

 寝相に自信がない。だけど、落ちることはないだろう。

 頑なに動かないでいたら、それ以上彼はなにも言わなかった。

 カチカチと秒針の音に混じって、彼の寝息が聞こえてくる。寝つきがいいのか、もう眠ってしまったようだ。

 ――私も寝ないと。

 無理やり目を閉じて、頭の中を空っぽにする。
 今日から始まった結婚生活がうまくいきますようにと願いながら、私は眠りについた。
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