御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
「うん、今日もおいしい」
「よかった」

 私も椅子に座り、朝食に箸をつける。

 実は今日まで、長い有給をもらっていた。
 ずっと使ったこともなく、溜まり続けていた有給だ。
 上司に休暇申請を出したときかなり驚かれたけれど、私が添えた理由を見て、さらに驚かれた。

「星名、結婚するのか!?」
「……はい。実は急なんですが……」

 その瞬間、小さな会社がさざ波を打つように急に騒がしくなる。

 あの星名さんが……。
 男の影すらなさそうだったのに……。
 実は嘘なのでは……?

 と、ひそひそと会話をする声の中には的を射た言葉もあって、私はどきりとしながらも、なんとか有給申請を通した。

「一週間も丸っと休んだのなんて年末年始の休暇ぐらいで……。戻るのに緊張します」
「それなら、俺が送って行こうか?」
「いえ! それは大丈夫です……!」

 ぶんぶんと首を振れば、彼が残念そうに肩を落とす。

 こんな美丈夫が現れたとあっては、従業員たちがパニックになってしまう。
 ただでさえ結婚自体が嘘なのでは? と言われてしまうほどなのだ。
 それほどまでに私は人付き合いに乏しく、面白みのない人間だと思われている。
 最近は特に父の会社のこともあり根を詰めていたため、周りからは距離を置かれていた。

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