御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
「本当に大丈夫ですので、私のことは気にしないでください」
「……わかった。今日は送らないでおく。だけど、行く前に声をかけてほしい」
「わかりました」

 なにかあるのだろうかと不思議に思いつつ朝食を済ませ、身支度を整えて玄関へ向かう。
 いつものクセで靴を履きかけた私は、彼から言われたことを思い出して、あっ、と声を上げた。

「すみません、蓮さん。私、もう出ようと思うのですが……」
「よかった。玄関に行く千尋を見て、忘れられてるんじゃないかとヒヤヒヤした」

 急いでリビングに戻れば、ソファーの上で新聞を広げていた彼が顔を上げる。

 もし私が忘れたまま外に出ていたらどうなっていたんだろう……と想像するも、彼のことだから追いかけてくることはなさそうだな……と思って、わずかに胸が痛んだ。

「左手を出して」
「左手……ですか?」

 彼がソファーから立ち上がり、わざわざ私の前で跪く。
 突然すぎてなにが起こったのかわからず、私は彼に手を取られたまま、えっ? と挙動不審に自分の左手と彼の顔を交互に見た。

「渡そうと思ったまま、なかなかタイミングがつかめなくて」

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