腹黒王子の愛は、激甘でした。

48話 文化祭前日

文化祭準備が始まってから、あっという間に時間は過ぎていった。

最初は終わらないと思っていた仕事も、少しずつ慣れてきて。

書類の整理も、各クラスとのやり取りも、前よりスムーズに進められるようになっていた。

「咲良さん、この資料確認お願い!」

「はい!今やります!」

自然と体が動く。

前みたいに焦ることもなくなっていた。

(ちゃんとできてる……かも)

ほんの少し、自信がついてきた気がする。


* * *


そして──

ついに文化祭前日。

放課後の校内は、いつもとは比べ物にならないほどの賑わいだった。

廊下には装飾が施され、教室からは準備の声が響く。

どこもかしこも、文化祭一色。

(いよいよ明日なんだ……)

私は最終チェックの資料を片手に、校内を回っていた。

「火気の位置、大丈夫……」

「通路も確保されてる……」

「ステージ機材も問題なし……!」

一つ一つ確認していく。

責任は大きいけど、不思議と怖くはなかった。

(ここまでやってきたもんね)

最後のチェックを終えて、私は小さく息を吐いた。

「……よし、これで全部」

やり切った達成感がじんわり広がる。

そのとき──

「お疲れ様、優」

後ろから、穏やかな声がした。

振り返ると、そこにいたのは廉先輩だった。

「廉先輩……!」

思わず顔がほころぶ。

「もう全部終わったの?」

「はい!さっき最終チェック終わりました!」

そう言うと、廉先輩は少し目を細めて笑った。

「そっか。ちゃんとやり切ったんだね」

その言い方が、なんだかすごく優しくて。

胸がじんわり温かくなる。

「はい……最初は全然ダメダメだったんですけど……」

「最近は少しずつ慣れてきて……」

少し照れながらそう言うと、廉先輩は軽く首を横に振った。

「“少し”じゃないでしょ」

「え……?」

「最初から見てたけどさ」

「優、めちゃくちゃ頑張ってたよ」

まっすぐに言われて、言葉が詰まる。

(最初から……見ててくれたんだ)

「ちゃんと周り見て動いてたし、誰よりも責任感あった」

「普通、あの量で投げ出さない方がすごいって」

淡々としてるのに、ちゃんと伝わってくる優しさ。

思わず、胸の奥がじんとする。

「……ありがとうございます」

小さくそう言うと、廉先輩はふっと笑った。

「うん、よく頑張ったね」

ぽん、と軽く頭に手が乗る。

優しく撫でられて、少しだけくすぐったい。

「明日は本番だし、無理しないでよ?」

「はい……!」

自然と笑顔になる。

「楽しんでね、せっかくの文化祭なんだから」

その言葉に、私ははっとした。

(そうだ……楽しむのも大事だよね)

準備に必死で、少し忘れていたこと。

「……はい!楽しみます!」

私はしっかりと頷いた。

すると廉先輩は、少しだけ視線を逸らしてから、

「明日の文化祭終わったら、俺と…」

と、何かポツリと呟いた。

「え?」

聞き返そうとしたときには、もういつもの軽い笑顔に戻っていた。

「なんでもない。じゃ、また明日ね」

そう言って、ひらっと手を振る。

「はい!また明日です!」

私も手を振り返した。

去っていく背中を見送りながら、胸の奥がほんのり温かくなる。

(廉先輩、優しいなぁ……)

その優しさに支えられて、ここまで来れた気がする。

そして──

いよいよ明日は文化祭本番。

(絶対、成功させよう)

私は静かに、そう心に誓った。
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