腹黒王子の愛は、激甘でした。

47話 頼りになる先輩

文化祭実行委員としての仕事が本格的に始まってから数日。

あまりに多い仕事量に私は頭を抱えていた。

「えっと……このクラスは飲食だから火気使用申請が必要で……こっちはステージ希望だから時間調整……」

ペンを持つ手が止まらない。

でもそれ以上に──

(終わらない……!!)

仕事量が減る気配が全くない。

むしろどんどん増えている気がする。

「咲良さん、この書類チェックお願い!」

「あ、はい!」

「これも追加で!」

「は、はい……!」

次々と渡される書類に、ついに思考が追いつかなくなってくる。

(やばい……ちょっとパンクしそう……)

ぐっとこめかみを押さえたその時──

「優」

ふっと、聞き慣れた落ち着いた声がした。

顔を上げると、そこには颯汰先輩が立っていた。

「颯汰先輩……!?」

思わず驚いて声が出る。

「どうしたんですか?」

「どうしたも何も、優が大変そうだって聞いたから」

そう言って颯汰先輩は私の机の上を見渡した。

その視線の先には、大量の書類。

「……これは確かに大変だね」

少し苦笑しながら言う。

「す、すみません……なんか要領悪くて……」

思わず弱音がこぼれる。

すると颯汰先輩は、ふっと優しく笑った。

「謝る必要ないよ。これは普通に多いと思う」

「え……?」

「初めてでこれ全部一人で回してる方がすごいよ」

さらっと言われたその言葉に、胸がじんわり温かくなる。

「……っ、ありがとうございます」

少しだけ肩の力が抜けた気がした。

すると颯汰先輩は自然な動作で私の隣の椅子を引いた。

「少し手伝うよ」

「えっ!?」

「ちょうど生徒会の仕事も一段落したしね」

そう言って、当たり前のように座る。

(え、いいの……!?)

戸惑っている私をよそに、颯汰先輩はもう書類に目を通し始めていた。

「これは分類した方がいいかも。飲食、展示、ステージで分けて」

「は、はい!」

指示が的確すぎて思わず背筋が伸びる。

「あとこの申請書、記入漏れあるから一旦戻した方がいい」

「えっ、ほんとだ……!」

さっきまで全然気づかなかったところを一瞬で見抜く。

(やっぱりすごい……!)

改めて尊敬の気持ちが込み上げてくる。

しばらくして。

作業は驚くほどスムーズに進んでいた。

さっきまで終わらないと思っていた量が、どんどん片付いていく。

「……すごいです、颯汰先輩」

思わず本音が漏れる。

「優がちゃんとやってたからだよ。整理すればすぐ終わる状態だったし」

「そんなことないです……!」

首を振る私を見て、颯汰先輩はくすっと笑った。

「相変わらず自己評価低いね」

「うっ……」

図星で何も言い返せない。

すると颯汰先輩は、少しだけ顔を近づけてきた。

「もっと自信持っていいよ」

「優はちゃんと頑張ってるから」

優しく、でもまっすぐに言われて。

ドクン、と心臓が大きく鳴る。

(ち、近い……!?)

一瞬だけドキッとしたけど──

(でも颯汰先輩は、誰にでも優しいし……)

そう思って、なんとか平静を保つ。

「ありがとうございます……!頑張ります!」

私は笑顔でそう返した。

その様子を見た颯汰先輩は、ほんの少しだけ複雑そうな顔をしたけれど。

すぐにいつもの優しい笑顔に戻った。

「じゃあ、もう少し一緒に頑張ろう」

「はい!」

こうして私は、頼りになる先輩と一緒に作業を進めていく。

その距離が少しずつ近づいていることにも気づかないまま。
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