四神に愛され注意報
床に座ったまま、ねぎまが顔を真っ赤にして唸る。
「うぅ…小春ちゃん、見ちゃダメだって…」
「見てないから大丈夫だよ……」
言いながらも、つい顔が笑ってしまう。目の前の光景がおもしろすぎた。
「……朱雀、お前は本当に……」
ひややっこの低い声に、ねぎまがちらりと視線を向ける。
「だ、だってさぁ……」
言い訳を探すように口を開くが、言葉は途中でしぼんでいく。
「……反省はしてるよ」
「本当か?」
「多分」
「信用できん」
ひややっこがため息混じりに言うと、ねぎまはむっと唇を尖らせた。
「ひどくない!?白虎、俺にだけ厳しすぎじゃない?」
「お前が一番うるさいからな」
即答だった。
「良いも〜ん、小春ちゃんに慰めてもらうから〜!」
「あ、おい!」
ねぎまが勢いよく立ち上がり、よろけながら寄ってくる。
「小春ちゃ〜ん!白虎が冷たい……」
「ちょ、ちょっと待って!?」
抱きつかれる――と思った瞬間、ぐいっと首根っこを掴まれ、ねぎまの動きがぴたりと止まった。
「調子に乗るな」
ひややっこが、片手で軽々とねぎまを引き戻している。
「いだだだ!?首!首が締まってる!」
「自分から突っ込んでおいて何を言う」
「慰めてもらおうとしただけなのに〜!」
ひややっこは表情ひとつ変えず、淡々と言い放つ。
「はいはい、そこまでにしてください」
にょろ丸がやんわりと声を挟んだ。
「こーちゃんも困っていますよ」
「え、あ、うん……」
正直、困っているというより、笑いをこらえるのに必死だった。
「ほら見ろ」
ひややっこがちらりとこちらを見る。
「顔が引きつってるだろ」
「ち、違うよ……笑うの我慢してるだけだから……!」
そう言った瞬間、堪えきれずに吹き出してしまった。
「大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫……あっはは」
「……落ち着け。ゆっくり呼吸をしろ」
息を整えようとしても、笑いが止まらない。
無言で背中を軽く撫でてくれるカメ吉が心配そうに私を見た。
背中を撫でる手は大きくて、ひんやりしていて、不思議と呼吸が整っていく。
「ご、ごめん……っ」
ようやく笑いが収まって、私は目尻を拭った。
「なんか……安心しちゃって……」
「……安心、ですか」
にょろ丸が小さく目を瞬かせる。
その声はいつも通り穏やかなのに、どこか少しだけ柔らかかった。
「うん」
私は息を整えながら、もう一度頷いた。
「気が抜けたっていうか……一人じゃないんだなって思ったら、急に」
言い終わる前に、ねぎまが「それそれ!」と勢いよく声を上げた。
「そうだよね、小春ちゃん!」
首根っこを掴まれたままなのも忘れて、身振り手振りで主張する。
「今まで寂しかった分、俺達と一緒にいようね!」
「うん!」
「こーちゃんは僕達が守ります」
「……約束する」
「青龍の言う通りだ。困ったことがあったら俺達に頼れよ、分かったな?」
その言葉に、胸の奥が温かくなった。
「うん、分かった!」
小さく、でもはっきりと答えると―――ねぎまとひややっこが、ぱあっと花が咲いたみたいな顔をする。
「やった!正式に“頼っていい認定”だ!」
「何ですかそれ」
にょろ丸が首を傾げると、ねぎまはキメ顔で親指を立てた。
「あ、そうだ。小春ちゃんの学校に通いたい」
朝ご飯の途中。ちょっとそこの醤油を取ってと言わんばかりの軽さで、ねぎまは恐ろしいことをサラッと言った。
「……は?」
間の抜けた声を出したのは、私だったと思う。
「通いたいって……え、学校?」
「そ!小春ちゃんの学校!」
ねぎまは自分で剥いたりんごを食べながら、きらきらした目で頷く。その様子は、遠足の約束でも取り付けたかのように軽い。
「学校でも小春ちゃんのこと守れるし〜!学校ってところ行ってみたかったから!」
「行ったことないの?」
「ないよ」
「……ないの?」
思わず聞き返すと、ねぎまはあっさりと頷いた。
「うん。だって俺、基本外で暴れて……じゃなくて、活動してたし」
「暴れて……?」
「こいつ、全然守護していなかったからな」
ひややっこがねぎまを指差す。
「いや〜……まぁ、ねぇ〜……」
へらりと笑いながらりんごを器用に剥いていく。
りんご細工というやつだろうか。丸いりんごが、みるみるうちに鶴に姿を変える。
皿の上のりんごの鶴は、羽の先まで綺麗に形作られていて、皮の赤と中身の白が模様みたいになっていた。
「ねぎま、凄い!!」
思わずそう言うと、ねぎまはぱっと顔を輝かせた。
「凄いでしょ〜!実は俺、細かい作業得意なんだ〜!」
「……食べるの、ちょっともったいないね」
私がそう言うと、ねぎまは一瞬考えるように顎に手を当て、手をポンッと打った。
「じゃあ……あーん」
りんごを刺したフォークを私の口元に近付ける。
「えっ、ちょ――!」
驚いて思わず身を引くより先に、にょろ丸が冷蔵庫に入っていたネギをねぎまにぶん投げた。
「わっ!ネギ!?」
「ネギを持ってきました」
「何で???」
「焼き鳥にしてやろうかと思いまして……」
「怖っ!青龍の性格怖いよ!?」
ねぎまがわーわー言いながら私に抱きついてくる。
しがみつかれた腕がぎゅっと強くなる。
「……離れろ」
ひややっこが、さっきより低い声で言った。
「え、白虎?今度は何?」
「三秒以内に離れないと―――」
言い終わる前に、ねぎまが勢いよく私から飛び退いた。
「はい離れた!離れました!」
「判断が早いな」
「学習能力はあるんだよ俺!」
拝啓、天国のお父さんとお母さんへ。
天国でも元気ですか?私は何とかやっています。
二人がいなくなって半年が経って、やっぱり寂しいけれど、時々お婆ちゃんが見に来てくれるので元気です。
今日は良い報告があります!なんと、ねぎまとひややっことカメ吉とにょろ丸が人間になって現れたんだ!
しかも、四人は四神?っていう神様なんだって!(本名は朱雀、白虎、玄武、青龍っていうイカツイ名前らしいんだけどね)
小春より―――。
「って天国にお手紙を書いてる場合じゃない!」
私は紙をグシャッと丸めた。
「こーちゃん、もう家を出ないと学校に遅刻してしまいますよ?」
にょろ丸がノックして部屋に入ってきた。
「わっ!にょろ丸!?」
「白虎を起こしに来たのですけど……白虎がいませんね」
布団をめくると、いつもこの時間帯なら寝ているひややっこがいない。
「あ、ひややっこならここで寝ているよ?」
椅子を動かして膝上で気持ちよさそうに眠っているひややっこを指差す。
「こーちゃん……白虎だって男ですよ?」
「でもひややっこは温かいし〜」
「はぁ…誰に似たんでしょうか?」
「えへへ」
ひややっこを持ち上げて抱きしめていると、伸びをして起きた。
「あ、おはよう!」
「……良いな」
ぼそりと呟かれた声は、まだ寝起きで少し掠れていた。
「え?」
聞き返すと、ひややっこは視線を逸らし、咳払いを一つする。
そこへ、廊下の方からどたばたと足音が近付いてくる。
「こーはーるーちゃーん!」
勢いよく扉が開いて、ねぎまが顔を出した。
「早く行かないと遅刻しちゃうよ〜?」
「あっ!そうだった!!」
バタバタと玄関に降りて時計を見ると、今から走ると遅刻しないギリギリの時間だった。
「……間に合うか?」
「分かんない!じゃあ行ってきます!!」
カメ吉の質問に元気で返し、家を飛び出す。
無事に遅刻した。
(今度からお手紙は朝じゃなくて夜に書こう……)
「うぅ…小春ちゃん、見ちゃダメだって…」
「見てないから大丈夫だよ……」
言いながらも、つい顔が笑ってしまう。目の前の光景がおもしろすぎた。
「……朱雀、お前は本当に……」
ひややっこの低い声に、ねぎまがちらりと視線を向ける。
「だ、だってさぁ……」
言い訳を探すように口を開くが、言葉は途中でしぼんでいく。
「……反省はしてるよ」
「本当か?」
「多分」
「信用できん」
ひややっこがため息混じりに言うと、ねぎまはむっと唇を尖らせた。
「ひどくない!?白虎、俺にだけ厳しすぎじゃない?」
「お前が一番うるさいからな」
即答だった。
「良いも〜ん、小春ちゃんに慰めてもらうから〜!」
「あ、おい!」
ねぎまが勢いよく立ち上がり、よろけながら寄ってくる。
「小春ちゃ〜ん!白虎が冷たい……」
「ちょ、ちょっと待って!?」
抱きつかれる――と思った瞬間、ぐいっと首根っこを掴まれ、ねぎまの動きがぴたりと止まった。
「調子に乗るな」
ひややっこが、片手で軽々とねぎまを引き戻している。
「いだだだ!?首!首が締まってる!」
「自分から突っ込んでおいて何を言う」
「慰めてもらおうとしただけなのに〜!」
ひややっこは表情ひとつ変えず、淡々と言い放つ。
「はいはい、そこまでにしてください」
にょろ丸がやんわりと声を挟んだ。
「こーちゃんも困っていますよ」
「え、あ、うん……」
正直、困っているというより、笑いをこらえるのに必死だった。
「ほら見ろ」
ひややっこがちらりとこちらを見る。
「顔が引きつってるだろ」
「ち、違うよ……笑うの我慢してるだけだから……!」
そう言った瞬間、堪えきれずに吹き出してしまった。
「大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫……あっはは」
「……落ち着け。ゆっくり呼吸をしろ」
息を整えようとしても、笑いが止まらない。
無言で背中を軽く撫でてくれるカメ吉が心配そうに私を見た。
背中を撫でる手は大きくて、ひんやりしていて、不思議と呼吸が整っていく。
「ご、ごめん……っ」
ようやく笑いが収まって、私は目尻を拭った。
「なんか……安心しちゃって……」
「……安心、ですか」
にょろ丸が小さく目を瞬かせる。
その声はいつも通り穏やかなのに、どこか少しだけ柔らかかった。
「うん」
私は息を整えながら、もう一度頷いた。
「気が抜けたっていうか……一人じゃないんだなって思ったら、急に」
言い終わる前に、ねぎまが「それそれ!」と勢いよく声を上げた。
「そうだよね、小春ちゃん!」
首根っこを掴まれたままなのも忘れて、身振り手振りで主張する。
「今まで寂しかった分、俺達と一緒にいようね!」
「うん!」
「こーちゃんは僕達が守ります」
「……約束する」
「青龍の言う通りだ。困ったことがあったら俺達に頼れよ、分かったな?」
その言葉に、胸の奥が温かくなった。
「うん、分かった!」
小さく、でもはっきりと答えると―――ねぎまとひややっこが、ぱあっと花が咲いたみたいな顔をする。
「やった!正式に“頼っていい認定”だ!」
「何ですかそれ」
にょろ丸が首を傾げると、ねぎまはキメ顔で親指を立てた。
「あ、そうだ。小春ちゃんの学校に通いたい」
朝ご飯の途中。ちょっとそこの醤油を取ってと言わんばかりの軽さで、ねぎまは恐ろしいことをサラッと言った。
「……は?」
間の抜けた声を出したのは、私だったと思う。
「通いたいって……え、学校?」
「そ!小春ちゃんの学校!」
ねぎまは自分で剥いたりんごを食べながら、きらきらした目で頷く。その様子は、遠足の約束でも取り付けたかのように軽い。
「学校でも小春ちゃんのこと守れるし〜!学校ってところ行ってみたかったから!」
「行ったことないの?」
「ないよ」
「……ないの?」
思わず聞き返すと、ねぎまはあっさりと頷いた。
「うん。だって俺、基本外で暴れて……じゃなくて、活動してたし」
「暴れて……?」
「こいつ、全然守護していなかったからな」
ひややっこがねぎまを指差す。
「いや〜……まぁ、ねぇ〜……」
へらりと笑いながらりんごを器用に剥いていく。
りんご細工というやつだろうか。丸いりんごが、みるみるうちに鶴に姿を変える。
皿の上のりんごの鶴は、羽の先まで綺麗に形作られていて、皮の赤と中身の白が模様みたいになっていた。
「ねぎま、凄い!!」
思わずそう言うと、ねぎまはぱっと顔を輝かせた。
「凄いでしょ〜!実は俺、細かい作業得意なんだ〜!」
「……食べるの、ちょっともったいないね」
私がそう言うと、ねぎまは一瞬考えるように顎に手を当て、手をポンッと打った。
「じゃあ……あーん」
りんごを刺したフォークを私の口元に近付ける。
「えっ、ちょ――!」
驚いて思わず身を引くより先に、にょろ丸が冷蔵庫に入っていたネギをねぎまにぶん投げた。
「わっ!ネギ!?」
「ネギを持ってきました」
「何で???」
「焼き鳥にしてやろうかと思いまして……」
「怖っ!青龍の性格怖いよ!?」
ねぎまがわーわー言いながら私に抱きついてくる。
しがみつかれた腕がぎゅっと強くなる。
「……離れろ」
ひややっこが、さっきより低い声で言った。
「え、白虎?今度は何?」
「三秒以内に離れないと―――」
言い終わる前に、ねぎまが勢いよく私から飛び退いた。
「はい離れた!離れました!」
「判断が早いな」
「学習能力はあるんだよ俺!」
拝啓、天国のお父さんとお母さんへ。
天国でも元気ですか?私は何とかやっています。
二人がいなくなって半年が経って、やっぱり寂しいけれど、時々お婆ちゃんが見に来てくれるので元気です。
今日は良い報告があります!なんと、ねぎまとひややっことカメ吉とにょろ丸が人間になって現れたんだ!
しかも、四人は四神?っていう神様なんだって!(本名は朱雀、白虎、玄武、青龍っていうイカツイ名前らしいんだけどね)
小春より―――。
「って天国にお手紙を書いてる場合じゃない!」
私は紙をグシャッと丸めた。
「こーちゃん、もう家を出ないと学校に遅刻してしまいますよ?」
にょろ丸がノックして部屋に入ってきた。
「わっ!にょろ丸!?」
「白虎を起こしに来たのですけど……白虎がいませんね」
布団をめくると、いつもこの時間帯なら寝ているひややっこがいない。
「あ、ひややっこならここで寝ているよ?」
椅子を動かして膝上で気持ちよさそうに眠っているひややっこを指差す。
「こーちゃん……白虎だって男ですよ?」
「でもひややっこは温かいし〜」
「はぁ…誰に似たんでしょうか?」
「えへへ」
ひややっこを持ち上げて抱きしめていると、伸びをして起きた。
「あ、おはよう!」
「……良いな」
ぼそりと呟かれた声は、まだ寝起きで少し掠れていた。
「え?」
聞き返すと、ひややっこは視線を逸らし、咳払いを一つする。
そこへ、廊下の方からどたばたと足音が近付いてくる。
「こーはーるーちゃーん!」
勢いよく扉が開いて、ねぎまが顔を出した。
「早く行かないと遅刻しちゃうよ〜?」
「あっ!そうだった!!」
バタバタと玄関に降りて時計を見ると、今から走ると遅刻しないギリギリの時間だった。
「……間に合うか?」
「分かんない!じゃあ行ってきます!!」
カメ吉の質問に元気で返し、家を飛び出す。
無事に遅刻した。
(今度からお手紙は朝じゃなくて夜に書こう……)