四神に愛され注意報
四人が人間になって数日後。
私は今、台所の入口で立ち入り禁止を食らっている。
扉には『小春、これより先、立ち入ることを禁じる』と書かれた紙が貼られていた。
そして、入口に立ち塞がっているのは腕を組んだひややっこ。
「い、良いじゃん!私、もう大丈夫だって!」
「また怪我したらどうする」
「う……」
こうなったのは昨日、夜ご飯の天ぷらを揚げていた時、油が跳ねて手を少し火傷してしまったのだ。
火傷はすぐに冷やしたから大事にはならなかったけど……ひややっこは心配性なのか全く動こうとしない。
「小春ちゃん、可哀想〜」
ゴロゴロしながら私の教科書を読んでいたねぎまが口を挟む。
「台所出禁とか。俺だったら心折れる〜」
「お前もだ。二度と台所に入るな」
「えっ!?何で俺まで!?」
「昨日、卵焼きに砂糖一袋入れただろう」
「だって甘めの方が好きって小春ちゃんが言ってた!」
「……立ち入り禁止令は正しい判断だろう」
カメ吉はお茶を飲みながら静かに言った。
「でも、ちょっとくらい手伝わせてあげたら〜?」
「馬鹿か」
ニヨニヨしているねぎまのつむじに、ひややっこが逆手に持った扇子で打撃を入れる。
ドゴッと鈍い音がした。
痛そう……。
「俺は小春には怪我してほしくないんだ」
「だからって立ち入り禁止って……鬼じゃん」
「鬼で結構」
ピシャリと言い切った。
「私、そんな不器用じゃないよ!ご飯とか自分で作ってたし……」
バッと観葉植物に水やりをしているにょろ丸の方を振り返り、助けを求める。
「にょろ丸、台所の出禁解除ってどうやってするの!?」
「食器を運ぶ時はお願いしますね」
「そういうことじゃなくて……」
「白虎は過保護ですからね。潔く諦めましょう」
それから五日後。私が台所出禁になった以外は、至って平和だ。
「小春ー!おはよ〜」
「おはよ〜!」
朝、下駄箱に駆け込んだら遅刻ギリギリ仲間の真央に声をかけられた。
彼女は階段を登りながら風で乱れた前髪とリボンをササッと直す。
うちの学校は比較的制服のアレンジが自由なので、真央は学校指定のシャツにオシャレブランドのベストを着ており、めっちゃ可愛い!
「小春、生活とか色々大丈夫?」
「うん。最近は家事とか慣れてきたし、たまにお婆ちゃんが様子見に来てくれるから大丈夫だよ」
そして、唯一お父さんとお母さんが事故で死んじゃったことを知っているんだ。
正直、あの日のことはあまり覚えてない。
当時は『何でお父さんとお母さんいないの?』ってお葬式で親戚さん達が泣いてる中、そんなことを一人で思っていた。
あまりにも急だったから、理解できていなかったのか。
理解していたから脳が無意識にセーブしていたのか、分からない。
今はだいぶ心の整理がついたし、家も騒がしくなったから……大丈夫。
「そっか、変なことに巻き込まれてない?」
ふと、教室に向かう道すがら、そんなことを聞かれた。
「巻き込まれてないけど……何で?」
「昨日、小春の家から超イケメンが出てきて……変なことに巻き込まれていないか心配で」
「あー………」
(何だろう。めっちゃ心当たりしかない………)
私の間の抜けた声に、真央はピタッと足を止めた。
「その反応、完全に心当たりある顔じゃん」
「えっ、いや、その……」
「ねぇ小春」
真央がずいっと距離を詰めてくる。
「しかも超イケメンは一人じゃないでしょ」
「何で分かるの!?」
「スーパーで四人くらい一緒にいて、赤髪の人が小春の名前叫んでたから」
(あんにゃろ……帰ったら絶対怒ってやる)
真央は得意げに人差し指を立てる。
「昨日見たの、白髪で背高くて無口っぽい人と、赤っぽい髪でめちゃくちゃ元気そうな人と、優しそうな人と、首に蛇巻いたでっかい人」
完全一致だった。
「小春……」
真央は一瞬だけ真剣な顔になった。
「変な宗教とかじゃないよね?」
「違う違う!」
手をブンブン振って即答する。
(あー、何か言い訳を考えなきゃ。言い訳言い訳………)
「親戚!」
「親戚?」
「そう!最近この辺りに引っ越してきたらしくて……!」
言い切った瞬間、真央はじっと私の顔を見つめた。
「……へぇ」
「へ、へぇって何?」
真央は顎に手を当てる。
「全員、顔面偏差値高すぎない?」
そんなことを話していると、教室に入ってきた先生が開口一番に言った。
「はーい、今日は転校生が四人も来てるぞ〜!」
教室が一瞬、静まり返った。
……四人?多くない?
なんて思っていると、ホームルームが始まり、ねぎま、ひややっこ、にょろ丸、カメ吉が教室に入ってきた。
「転校生!」
「キャー!イケメン!!」
クラス中が女子の黄色い歓声に包まれる。
全員が同じクラスなの……何で?
転校生の姿を見た瞬間、真央が「あの人達、親戚って言ってたよね?」と、耳元で囁いてきた。
(タイミングが悪いよ……)
制服の着こなし方も様々だし、今までの校則はどうなったのっていうくらいのカラフルな髪色。カメ吉に至っては蛇を隠す為かマフラーを巻いているし……マフラーの中に蛇を通しているのかな?
「綾野朱雀でーす!りんご細工が得意だよ」
「綾野白虎。趣味はゴロ寝だ」
「同じく綾野青龍です。趣味は……園芸ですかね」
「……綾野玄武。マフラーを巻いているが気にしないでくれ」
やいのやいの、個性が強すぎる自己紹介をしている四人。
(あー、終わった。バイバイ、私の平和な学校生活)
頭を抱えながら天を仰いだ。
キーンコーンカーンコーン。
チャイムの音に私はハッと瞬いた。
周りのみんながお弁当を出している。私だけ一限目の教科書を開いたままだ。
「もうお昼休み!?」
近くにいたひややっこがお弁当箱を私の机に置いた。
「小春、一緒に弁当食べるぞ」
バンッ。
教室のドアが大きな音を立てて開いた。
次の瞬間、他クラスの女子達が雪崩のように教室の中に押し寄せてくる。
「お昼一緒に食べよ〜」
「ねぇ、彼女っているの!?」
殺到する生徒達に、四人の転校生ズはあっという間に包囲された。
教室は一瞬で戦場になった。
「朱雀くん、廊下で待ってたんだけど!」
「白虎くんこっち!」
「青龍くん、植物の話もっと聞かせて!」
「玄武くん無口なの良い……!」
きゃあきゃあと黄色い声が飛び交い、机がきしむ音、椅子を引く音が重なる。 完全に昼休みという名の襲撃だ。
お手洗いから帰ってきた真央が人混みの多さを見て「どういう状況!?」と、叫んでいる。
(うわぁ……)
私は自分のお弁当を抱えたまま、固まっていた。
「……小春」
低い声がして、我に返る。
視線を向けると、ひややっこが私を真っ直ぐ見ていた。
「え、な、何?」
「ここは無理だ。移動する」
「え?」
意味を理解する前に、ひややっこはすっと立ち上がり、ねぎまとにょろ丸、カメ吉に目配せした。
「おっし、外だね!」
ねぎまが、やけに楽しそうに弁当袋を持ち上げる。
次の瞬間。
「はいはーい!ちょっと通してもらえるかな〜!」
ねぎまが大声を出し、女子の群れに割って入る。
その勢いに、人の流れが一瞬だけ緩んだ。
「すみません、急用ですので」
にょろ丸が穏やかな笑顔のまま、しかし不思議と逆らえない圧で道を作る。
「……失礼」
カメ吉は短くそう言うと、その大きな体で自然に壁役になった。
―――気付いた時には。
「え、ちょ、ちょっと!?」
私はひややっこに手首を掴まれ、そのまま廊下へ引きずられて行く。
昼下がりの中庭は、思った以上に静かだった。
植え込みの緑が風に揺れ、噴水の水音が微かに聞こえる。
中庭の端にあるベンチに着くと、ひややっこが私を座らせる。
「ここなら落ち着く」
「最初からここにすればよかったね〜」
ねぎまがケロッと言いながら隣に腰を下ろす。
にょろ丸はベンチの背後の植木を眺め、満足そうに頷いた。
「日当たりも良いですし、良い場所ですね」
「暑いな……」
カメ吉は周りに私達以外の人がいないことを確認して、マフラーを外した。蛇がひょっこり顔を出す。
私は今、台所の入口で立ち入り禁止を食らっている。
扉には『小春、これより先、立ち入ることを禁じる』と書かれた紙が貼られていた。
そして、入口に立ち塞がっているのは腕を組んだひややっこ。
「い、良いじゃん!私、もう大丈夫だって!」
「また怪我したらどうする」
「う……」
こうなったのは昨日、夜ご飯の天ぷらを揚げていた時、油が跳ねて手を少し火傷してしまったのだ。
火傷はすぐに冷やしたから大事にはならなかったけど……ひややっこは心配性なのか全く動こうとしない。
「小春ちゃん、可哀想〜」
ゴロゴロしながら私の教科書を読んでいたねぎまが口を挟む。
「台所出禁とか。俺だったら心折れる〜」
「お前もだ。二度と台所に入るな」
「えっ!?何で俺まで!?」
「昨日、卵焼きに砂糖一袋入れただろう」
「だって甘めの方が好きって小春ちゃんが言ってた!」
「……立ち入り禁止令は正しい判断だろう」
カメ吉はお茶を飲みながら静かに言った。
「でも、ちょっとくらい手伝わせてあげたら〜?」
「馬鹿か」
ニヨニヨしているねぎまのつむじに、ひややっこが逆手に持った扇子で打撃を入れる。
ドゴッと鈍い音がした。
痛そう……。
「俺は小春には怪我してほしくないんだ」
「だからって立ち入り禁止って……鬼じゃん」
「鬼で結構」
ピシャリと言い切った。
「私、そんな不器用じゃないよ!ご飯とか自分で作ってたし……」
バッと観葉植物に水やりをしているにょろ丸の方を振り返り、助けを求める。
「にょろ丸、台所の出禁解除ってどうやってするの!?」
「食器を運ぶ時はお願いしますね」
「そういうことじゃなくて……」
「白虎は過保護ですからね。潔く諦めましょう」
それから五日後。私が台所出禁になった以外は、至って平和だ。
「小春ー!おはよ〜」
「おはよ〜!」
朝、下駄箱に駆け込んだら遅刻ギリギリ仲間の真央に声をかけられた。
彼女は階段を登りながら風で乱れた前髪とリボンをササッと直す。
うちの学校は比較的制服のアレンジが自由なので、真央は学校指定のシャツにオシャレブランドのベストを着ており、めっちゃ可愛い!
「小春、生活とか色々大丈夫?」
「うん。最近は家事とか慣れてきたし、たまにお婆ちゃんが様子見に来てくれるから大丈夫だよ」
そして、唯一お父さんとお母さんが事故で死んじゃったことを知っているんだ。
正直、あの日のことはあまり覚えてない。
当時は『何でお父さんとお母さんいないの?』ってお葬式で親戚さん達が泣いてる中、そんなことを一人で思っていた。
あまりにも急だったから、理解できていなかったのか。
理解していたから脳が無意識にセーブしていたのか、分からない。
今はだいぶ心の整理がついたし、家も騒がしくなったから……大丈夫。
「そっか、変なことに巻き込まれてない?」
ふと、教室に向かう道すがら、そんなことを聞かれた。
「巻き込まれてないけど……何で?」
「昨日、小春の家から超イケメンが出てきて……変なことに巻き込まれていないか心配で」
「あー………」
(何だろう。めっちゃ心当たりしかない………)
私の間の抜けた声に、真央はピタッと足を止めた。
「その反応、完全に心当たりある顔じゃん」
「えっ、いや、その……」
「ねぇ小春」
真央がずいっと距離を詰めてくる。
「しかも超イケメンは一人じゃないでしょ」
「何で分かるの!?」
「スーパーで四人くらい一緒にいて、赤髪の人が小春の名前叫んでたから」
(あんにゃろ……帰ったら絶対怒ってやる)
真央は得意げに人差し指を立てる。
「昨日見たの、白髪で背高くて無口っぽい人と、赤っぽい髪でめちゃくちゃ元気そうな人と、優しそうな人と、首に蛇巻いたでっかい人」
完全一致だった。
「小春……」
真央は一瞬だけ真剣な顔になった。
「変な宗教とかじゃないよね?」
「違う違う!」
手をブンブン振って即答する。
(あー、何か言い訳を考えなきゃ。言い訳言い訳………)
「親戚!」
「親戚?」
「そう!最近この辺りに引っ越してきたらしくて……!」
言い切った瞬間、真央はじっと私の顔を見つめた。
「……へぇ」
「へ、へぇって何?」
真央は顎に手を当てる。
「全員、顔面偏差値高すぎない?」
そんなことを話していると、教室に入ってきた先生が開口一番に言った。
「はーい、今日は転校生が四人も来てるぞ〜!」
教室が一瞬、静まり返った。
……四人?多くない?
なんて思っていると、ホームルームが始まり、ねぎま、ひややっこ、にょろ丸、カメ吉が教室に入ってきた。
「転校生!」
「キャー!イケメン!!」
クラス中が女子の黄色い歓声に包まれる。
全員が同じクラスなの……何で?
転校生の姿を見た瞬間、真央が「あの人達、親戚って言ってたよね?」と、耳元で囁いてきた。
(タイミングが悪いよ……)
制服の着こなし方も様々だし、今までの校則はどうなったのっていうくらいのカラフルな髪色。カメ吉に至っては蛇を隠す為かマフラーを巻いているし……マフラーの中に蛇を通しているのかな?
「綾野朱雀でーす!りんご細工が得意だよ」
「綾野白虎。趣味はゴロ寝だ」
「同じく綾野青龍です。趣味は……園芸ですかね」
「……綾野玄武。マフラーを巻いているが気にしないでくれ」
やいのやいの、個性が強すぎる自己紹介をしている四人。
(あー、終わった。バイバイ、私の平和な学校生活)
頭を抱えながら天を仰いだ。
キーンコーンカーンコーン。
チャイムの音に私はハッと瞬いた。
周りのみんながお弁当を出している。私だけ一限目の教科書を開いたままだ。
「もうお昼休み!?」
近くにいたひややっこがお弁当箱を私の机に置いた。
「小春、一緒に弁当食べるぞ」
バンッ。
教室のドアが大きな音を立てて開いた。
次の瞬間、他クラスの女子達が雪崩のように教室の中に押し寄せてくる。
「お昼一緒に食べよ〜」
「ねぇ、彼女っているの!?」
殺到する生徒達に、四人の転校生ズはあっという間に包囲された。
教室は一瞬で戦場になった。
「朱雀くん、廊下で待ってたんだけど!」
「白虎くんこっち!」
「青龍くん、植物の話もっと聞かせて!」
「玄武くん無口なの良い……!」
きゃあきゃあと黄色い声が飛び交い、机がきしむ音、椅子を引く音が重なる。 完全に昼休みという名の襲撃だ。
お手洗いから帰ってきた真央が人混みの多さを見て「どういう状況!?」と、叫んでいる。
(うわぁ……)
私は自分のお弁当を抱えたまま、固まっていた。
「……小春」
低い声がして、我に返る。
視線を向けると、ひややっこが私を真っ直ぐ見ていた。
「え、な、何?」
「ここは無理だ。移動する」
「え?」
意味を理解する前に、ひややっこはすっと立ち上がり、ねぎまとにょろ丸、カメ吉に目配せした。
「おっし、外だね!」
ねぎまが、やけに楽しそうに弁当袋を持ち上げる。
次の瞬間。
「はいはーい!ちょっと通してもらえるかな〜!」
ねぎまが大声を出し、女子の群れに割って入る。
その勢いに、人の流れが一瞬だけ緩んだ。
「すみません、急用ですので」
にょろ丸が穏やかな笑顔のまま、しかし不思議と逆らえない圧で道を作る。
「……失礼」
カメ吉は短くそう言うと、その大きな体で自然に壁役になった。
―――気付いた時には。
「え、ちょ、ちょっと!?」
私はひややっこに手首を掴まれ、そのまま廊下へ引きずられて行く。
昼下がりの中庭は、思った以上に静かだった。
植え込みの緑が風に揺れ、噴水の水音が微かに聞こえる。
中庭の端にあるベンチに着くと、ひややっこが私を座らせる。
「ここなら落ち着く」
「最初からここにすればよかったね〜」
ねぎまがケロッと言いながら隣に腰を下ろす。
にょろ丸はベンチの背後の植木を眺め、満足そうに頷いた。
「日当たりも良いですし、良い場所ですね」
「暑いな……」
カメ吉は周りに私達以外の人がいないことを確認して、マフラーを外した。蛇がひょっこり顔を出す。