人生の岐路に立つとき
第一章 幸助の話-19
※本作は 文芸社より2026年7月に書籍化 されます。
応援してくださる皆さまのおかげです。ありがとうございます。
30歳のとき、僕の人生は音を立てて崩れた。
母のくも膜下出血による介護、うつ、解雇、転職失敗。
どれかひとつでも重いのに、一度に全部が襲ってきた。
それでも――
毎日「1日20分だけ」書くことを続けた。
この作品は、
人生のどん底に落ちた男が、
どうやってもう一度立ち上がったのかという、
“再生の記録” です。
読んでくださるあなたの人生が、
少しでも軽くなるなら、それ以上の幸せはありません。
幸助は、時折、少しだけ時間ができるとふと母親のことを思い出す。なかなか面会に行けなくてごめん。老人ホームに入れることになってしまってごめん――。平日は仕事に忙殺される日々。それでも、ふとしたタイミングで母のことが頭をよぎり、そのたびに少し涙ぐむ。
その感情は、幸助だけでなく、弟の啓介も同じだっただろう。面会を終えた啓介の目が少し潤んでいたのを、幸助は見逃さなかった。
実家に戻ると、すでに食事の準備が整っていた。母親が倒れて以来、それまで母に任せきりだった食事の支度は、父・勝彦が主に担当するようになっていた。
食事が始まると、酒好きの勝彦に合わせて、幸助と啓介もそろって酒を飲んだ。話題は尽きることなく、笑い話や仕事の話、母親の話などが次々と飛び出す。姉の成美は酒は飲まないが、にこやかに会話に加わった。
幸助は普段、あまり話すタイプではないが、酒の力を借りると少しだけ饒舌になる。
四人は、一家団欒の楽しい時間を過ごすことができた。
鈴木家の〝一次会〟は終了し、「じゃあ、俺は寝るから、二次会もしっかり飲めよ」と言い残して、父は席を立った。
後片付けを済ませて二次会へと移る。といっても、場所を居間に移して、テレビを眺めながらスマホをいじったり、雑談を交わすだけの時間だったのだが。
それでも、兄弟がそろえば自然と会話は弾む。仕事の話もあれば、「今ポケモンのカードゲームアプリが流行ってるから、やってみようよ?」と啓介が勧めてきたり、成美が「この動画、めっちゃ面白いから見て」とスマホを差し出してきたりといったとりとめのない話題だ。
それと、普段はなかなか口に出しては言えない仕事の悩みにも話が及び、忙しくて大変だよなとか、竹を割ったような会話も、兄弟だからこそ打ち明けられた。
改めて、兄弟っていいなと思えるひとときだった。
夜も更け、姉の成美は風呂に入った。居間には幸助と啓介の二人だけだ。幼少期、おそらく一番長い時間を共に過ごし、何かと理解のある弟には、悩みを素直に打ち明けられる。
そこで幸助は、思い切って自分の夢を語ることにした。
「最近になって、本気で本を書こうと思ってるんだ」
「本当? それはすごいね。実は俺も、幸助に言われてから本を読むようになったんだよ」
啓介の言葉に、幸助は以前、自分が「本を読むと思考が整理されて、仕事もこなせるようになるよ」とたびたび勧めていたことを思い出した。弟もその効果を実感しているようで、幸助の「本を書きたい」という思いに、素直に理解を示してくれた。
「実は、小さい頃から古いパソコンで、いつかドラクエみたいな小説を書きたいって思ってたんだ。まぁ、当時はゲームばっかりだったけどな」
そう幸助が語ると、啓介は「すごいなー」と感心したり、「それって本当に稼げるの?」と率直な疑問を投げかけたりしながら話を聞いてくれた。
もし父に相談していたら、「それはちょっと考えが甘いんじゃないか」と否定されていたかもしれない話題である。だからこそ、幸助は「父には結果を出してから報告するしかないな」と静かに思っていた。
「やっぱりお金って必要だもんな。俺も何か始めないとなぁ」
そう言いながら、弟としみじみ語り合い、そろそろ寝ようか——と、夜の二次会は穏やかに終わりを迎えた。
広告なしで全文無料公開中! 続きは2026年7月文芸社書籍で加筆修正版を!
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母のくも膜下出血による介護、うつ、解雇、転職失敗。
どれかひとつでも重いのに、一度に全部が襲ってきた。
それでも――
毎日「1日20分だけ」書くことを続けた。
この作品は、
人生のどん底に落ちた男が、
どうやってもう一度立ち上がったのかという、
“再生の記録” です。
読んでくださるあなたの人生が、
少しでも軽くなるなら、それ以上の幸せはありません。
幸助は、時折、少しだけ時間ができるとふと母親のことを思い出す。なかなか面会に行けなくてごめん。老人ホームに入れることになってしまってごめん――。平日は仕事に忙殺される日々。それでも、ふとしたタイミングで母のことが頭をよぎり、そのたびに少し涙ぐむ。
その感情は、幸助だけでなく、弟の啓介も同じだっただろう。面会を終えた啓介の目が少し潤んでいたのを、幸助は見逃さなかった。
実家に戻ると、すでに食事の準備が整っていた。母親が倒れて以来、それまで母に任せきりだった食事の支度は、父・勝彦が主に担当するようになっていた。
食事が始まると、酒好きの勝彦に合わせて、幸助と啓介もそろって酒を飲んだ。話題は尽きることなく、笑い話や仕事の話、母親の話などが次々と飛び出す。姉の成美は酒は飲まないが、にこやかに会話に加わった。
幸助は普段、あまり話すタイプではないが、酒の力を借りると少しだけ饒舌になる。
四人は、一家団欒の楽しい時間を過ごすことができた。
鈴木家の〝一次会〟は終了し、「じゃあ、俺は寝るから、二次会もしっかり飲めよ」と言い残して、父は席を立った。
後片付けを済ませて二次会へと移る。といっても、場所を居間に移して、テレビを眺めながらスマホをいじったり、雑談を交わすだけの時間だったのだが。
それでも、兄弟がそろえば自然と会話は弾む。仕事の話もあれば、「今ポケモンのカードゲームアプリが流行ってるから、やってみようよ?」と啓介が勧めてきたり、成美が「この動画、めっちゃ面白いから見て」とスマホを差し出してきたりといったとりとめのない話題だ。
それと、普段はなかなか口に出しては言えない仕事の悩みにも話が及び、忙しくて大変だよなとか、竹を割ったような会話も、兄弟だからこそ打ち明けられた。
改めて、兄弟っていいなと思えるひとときだった。
夜も更け、姉の成美は風呂に入った。居間には幸助と啓介の二人だけだ。幼少期、おそらく一番長い時間を共に過ごし、何かと理解のある弟には、悩みを素直に打ち明けられる。
そこで幸助は、思い切って自分の夢を語ることにした。
「最近になって、本気で本を書こうと思ってるんだ」
「本当? それはすごいね。実は俺も、幸助に言われてから本を読むようになったんだよ」
啓介の言葉に、幸助は以前、自分が「本を読むと思考が整理されて、仕事もこなせるようになるよ」とたびたび勧めていたことを思い出した。弟もその効果を実感しているようで、幸助の「本を書きたい」という思いに、素直に理解を示してくれた。
「実は、小さい頃から古いパソコンで、いつかドラクエみたいな小説を書きたいって思ってたんだ。まぁ、当時はゲームばっかりだったけどな」
そう幸助が語ると、啓介は「すごいなー」と感心したり、「それって本当に稼げるの?」と率直な疑問を投げかけたりしながら話を聞いてくれた。
もし父に相談していたら、「それはちょっと考えが甘いんじゃないか」と否定されていたかもしれない話題である。だからこそ、幸助は「父には結果を出してから報告するしかないな」と静かに思っていた。
「やっぱりお金って必要だもんな。俺も何か始めないとなぁ」
そう言いながら、弟としみじみ語り合い、そろそろ寝ようか——と、夜の二次会は穏やかに終わりを迎えた。
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