受付嬢なのに、清掃員から一途に溺愛されています ~タワマン最上階で猫と過ごす、秘密の恋~

週末ランチと、猫の話で近づく距離

 最近、早朝に出社するのが、
 すっかり日課になりつつあった。

 理由は自分でも分かっている。
 ――また、あの清掃員に会えないかな。

 そんな淡い期待を抱きながら
 ロビーを通る朝が、
 いつの間にか当たり前になっていた。

 それでも、なかなか姿は見えない。

 数日そんな日が過ぎていった。
 今朝は、
 ロビーの奥で掃除をしている姿を見かけた。

 思わず、足を止める。
 近くに、女性が一人立っている。
 二人は、楽しそうに話していた。

 ……もしかして、彼女?

 胸の奥が、きゅっと小さく縮む。

 女性は話を終えると、
 そのまま
 上階へ向かうエレベーターに乗った。

 ――あの人、確か秘書課の人、
 綺麗な清楚な感じの人。

 清掃員でも、モテるのかな、
 ちょっとカッコいいし。
 そんなことを考えてしまう自分に、
 少し苦笑する。

 清掃員が道具を片づけ、
 帰ろうとするのが見えた。

 このまま、
 何も言わずに見送るのは嫌だった。

 私は近寄って、思い切って、声をかける。

  「……先日は、ありがとうございました」

 彼が振り返る。

  「受付をしている、森川です。
   ぜひ、お礼をさせてほしくて
   ……もしよかったら、連絡先を
   教えていただけませんか」

  ――あ。
 言ってしまった、と気づいたときには、もう遅かった。

 頬が一気に熱くなる。
 清掃員は、少し驚いたように目を瞬かせ、
 それから困ったように笑った。

  「僕は、西条です。
   あの時は、
   お困りのようだったので……
   ちょっと、余計な口出しを
   したかもしれません」

  「いえ、そんなことありません。
   本当に、助かりました」

 どうしても引き下がりたくなくて、
 私は少し食い下がる。

 しばらく迷ったあと、
 西条さんはポケットから
 小さな名刺を取り出した。

 そこには、
 《西条》
 《清掃員》
 とだけ、簡単に印字されている。

  「ここに、
   メールと電話番号が書いてあります。
   でも、本当に……
   気にしないでください」

 そう言って、彼は清掃道具を手に、
 外へと歩いていった。

 ……少し、強引だったかな。

 そう思いながらも、
 胸の奥では別の感情が動いていた。
< 16 / 59 >

この作品をシェア

pagetop