八年執着されましたが、幸せです ~傷心のホテリエですが、イケメン御曹司と契約恋人になりました~
十一時四十五分から、十分の休憩をとったあと、私はキッチンに向かった。
「片付けは終わった?」
リビングで映画を見ていた暁人さんは、私を見て微笑みかけてくる。
「途中ですが、物が少ないので順調です。キッチンを見させていただきますね」
私はそう言って、立派なアイランドキッチンに向かう。
キッチン台はダークトーンのウッド調で、とても高級感がある。
家電はビルトインで、大型の冷蔵庫も含めてレンジや冷凍庫、ワイナリーや食器用クローゼット、調味料の棚などが、一見スッキリとした壁のように隠されている。
冷蔵庫についている液晶だけは表に出ているけれど、私はこういうタイプの冷蔵庫は初めてなので困惑する。
「この液晶はどんなふうに使いますか?」
「冷蔵庫の温度を設定したり、センサーでドアを開けたりできるよ。あと、食品を冷蔵庫に入れる時にAIカメラが認識して、連動するアプリで冷蔵庫の中に何が入ってるか確認できる」
「凄い!」
まさかそんな冷蔵庫があると思わず、私は声を上げる。
「家電の説明書はここに纏めてある」
そう言って、暁人さんはリビングにあるサイドボードの引き出しを開けた。
覗いてみると、ファイルにこの家にある家電や電子機器の説明書が綺麗に纏められてあった。
上にはラベリングシールで分かりやすく何の説明書か記されていて、仕事が丁寧だ。
「凄いですね。分かりやすくて助かります」
そう言うと、暁人さんはクシャッと笑って「几帳面なA型なんだ」と言った。
「私もA型です」
「奇遇だね」
共通点があって微笑み合ったあと、暁人さんはサラッと私の髪を撫でて言う。
「真面目で神経質だから、余計に色々あって参ってしまっていたのかな」
面接を受けた日、ホテルで具合を悪くした事を言われ、私は苦笑いする。
「その節はご迷惑をおかけしました。……今もお世話になりっぱなしですけど。……でも、きちんと働いてご恩返しできるよう努めます」
私はそう言ってペコリと頭を下げる。
すると彼は困ったように笑って言う。
「君の家の店を救ったのも、代わりに君に家政婦を求めたのも、ビジネスなんだから、何度もお礼を言わなくていいよ」
そう言われ、僅かに胸の奥が痛んだ。
「そう……、ですよね。すみません」
私が若干傷付いたのを察してか、暁人さんは気まずい顔になる。
「ごめん。今のは言い方が悪かった。……とにかく、気にしすぎる事はないよ、って言いたかったんだ」
「はい」
変な空気になったので、私は努めて笑顔を浮かべて言った。
「ご飯……、作りますか?」
「いや、初志貫徹で俺が作るよ。今日のところは、芳乃はお客さんだから」
そう言って暁人さんはウインクし、冷蔵庫を開けて「何ができるかな……」と呟く。
「簡単な物で大丈夫ですよ。……って、作る人にこんな事を言ったらいけませんね」
「そんなに気を遣わなくていいよ。これ飲んで、ソファで座ってて」
暁人さんはそう言って、ブラッドオレンジジュースをグラスに注ぐと「はい」と手渡してきた。
「ありがとうございます。……それじゃあ、お言葉に甘えて」
家政婦として雇われたなら、私が作るのが筋だろうけど、雇い主である彼がこう言ってくれているのに、食い下がるのもおかしい。
私は広々としたリビングのソファの隅に腰かけ、キッチンで暁人さんが料理するのを、くすぐったい気持ちで見守っていた。
彼は途中でスマートスピーカーに話しかけ、軽快なジャズを流し始めた。
もともと洗練された空間が、音楽一つでもっとお洒落な場所になる。
まるで高級ホテルのラウンジバーにいるような気持ちになった私は、「贅沢だなぁ」と思いながらオレンジジュースをちびちびと飲んだ。
やがて暁人さんはプロの料理人が作ったような、お洒落なトマトパスタを作ってくれた。
彼いわく、「トマトを余していた時にトマトソースを作って、冷凍していた物を使っただけ」らしいけれど、茄子やズッキーニ、マッシュルームに厚切りベーコンの具も美味しそうだし、ベランダで育てているフレッシュバジルをちょんと載せるのも素敵だ。
パスタとサラダを食べたあと、二人で食器を片づけ、食洗機の使い方を教えてもらった。
ベランダを案内してもらうと、バジルの他に紫蘇、茗荷やオクラ、ミニトマト、その他ハーブ類が植えられてある。
「必要になったら、採り放題で有効活用して」
「はい」
食事のあとは引き続き部屋の整理をしたり、ある程度片付いたあとは、リビングで家電の説明書を読みふけった。
夕食時になると、暁人さんが「歓迎会に行くよ」と悪戯っぽく誘ってくれ、私の手持ちのワンピースでも大丈夫な、カジュアルな、それでいてお洒落なビストロに連れて行ってくれた。
**
翌日は大変だった。
暁人さんが言っていたように、外商なる人たちが家にやって来て、ハイブランドの服や靴、アクセサリーやらを並べたものだから、私は怯えて何も言えなくなってしまった。
すると女性スタッフが私に似合うアイテムを見繕ってくれ、基礎化粧品、コスメ、下着、服、靴、バッグ、アクセサリー、文房具や香水、部屋に置くオーディオ機器に至るまで、何から何まで揃えられてしまった。
プロがいいと思った物を決めてくれるのはありがたいけれど、一応私に似合うかどうか、好みかどうかも聞かれるので、すべてを決めて買い物を終える頃には一日が終わっていた。
「片付けは終わった?」
リビングで映画を見ていた暁人さんは、私を見て微笑みかけてくる。
「途中ですが、物が少ないので順調です。キッチンを見させていただきますね」
私はそう言って、立派なアイランドキッチンに向かう。
キッチン台はダークトーンのウッド調で、とても高級感がある。
家電はビルトインで、大型の冷蔵庫も含めてレンジや冷凍庫、ワイナリーや食器用クローゼット、調味料の棚などが、一見スッキリとした壁のように隠されている。
冷蔵庫についている液晶だけは表に出ているけれど、私はこういうタイプの冷蔵庫は初めてなので困惑する。
「この液晶はどんなふうに使いますか?」
「冷蔵庫の温度を設定したり、センサーでドアを開けたりできるよ。あと、食品を冷蔵庫に入れる時にAIカメラが認識して、連動するアプリで冷蔵庫の中に何が入ってるか確認できる」
「凄い!」
まさかそんな冷蔵庫があると思わず、私は声を上げる。
「家電の説明書はここに纏めてある」
そう言って、暁人さんはリビングにあるサイドボードの引き出しを開けた。
覗いてみると、ファイルにこの家にある家電や電子機器の説明書が綺麗に纏められてあった。
上にはラベリングシールで分かりやすく何の説明書か記されていて、仕事が丁寧だ。
「凄いですね。分かりやすくて助かります」
そう言うと、暁人さんはクシャッと笑って「几帳面なA型なんだ」と言った。
「私もA型です」
「奇遇だね」
共通点があって微笑み合ったあと、暁人さんはサラッと私の髪を撫でて言う。
「真面目で神経質だから、余計に色々あって参ってしまっていたのかな」
面接を受けた日、ホテルで具合を悪くした事を言われ、私は苦笑いする。
「その節はご迷惑をおかけしました。……今もお世話になりっぱなしですけど。……でも、きちんと働いてご恩返しできるよう努めます」
私はそう言ってペコリと頭を下げる。
すると彼は困ったように笑って言う。
「君の家の店を救ったのも、代わりに君に家政婦を求めたのも、ビジネスなんだから、何度もお礼を言わなくていいよ」
そう言われ、僅かに胸の奥が痛んだ。
「そう……、ですよね。すみません」
私が若干傷付いたのを察してか、暁人さんは気まずい顔になる。
「ごめん。今のは言い方が悪かった。……とにかく、気にしすぎる事はないよ、って言いたかったんだ」
「はい」
変な空気になったので、私は努めて笑顔を浮かべて言った。
「ご飯……、作りますか?」
「いや、初志貫徹で俺が作るよ。今日のところは、芳乃はお客さんだから」
そう言って暁人さんはウインクし、冷蔵庫を開けて「何ができるかな……」と呟く。
「簡単な物で大丈夫ですよ。……って、作る人にこんな事を言ったらいけませんね」
「そんなに気を遣わなくていいよ。これ飲んで、ソファで座ってて」
暁人さんはそう言って、ブラッドオレンジジュースをグラスに注ぐと「はい」と手渡してきた。
「ありがとうございます。……それじゃあ、お言葉に甘えて」
家政婦として雇われたなら、私が作るのが筋だろうけど、雇い主である彼がこう言ってくれているのに、食い下がるのもおかしい。
私は広々としたリビングのソファの隅に腰かけ、キッチンで暁人さんが料理するのを、くすぐったい気持ちで見守っていた。
彼は途中でスマートスピーカーに話しかけ、軽快なジャズを流し始めた。
もともと洗練された空間が、音楽一つでもっとお洒落な場所になる。
まるで高級ホテルのラウンジバーにいるような気持ちになった私は、「贅沢だなぁ」と思いながらオレンジジュースをちびちびと飲んだ。
やがて暁人さんはプロの料理人が作ったような、お洒落なトマトパスタを作ってくれた。
彼いわく、「トマトを余していた時にトマトソースを作って、冷凍していた物を使っただけ」らしいけれど、茄子やズッキーニ、マッシュルームに厚切りベーコンの具も美味しそうだし、ベランダで育てているフレッシュバジルをちょんと載せるのも素敵だ。
パスタとサラダを食べたあと、二人で食器を片づけ、食洗機の使い方を教えてもらった。
ベランダを案内してもらうと、バジルの他に紫蘇、茗荷やオクラ、ミニトマト、その他ハーブ類が植えられてある。
「必要になったら、採り放題で有効活用して」
「はい」
食事のあとは引き続き部屋の整理をしたり、ある程度片付いたあとは、リビングで家電の説明書を読みふけった。
夕食時になると、暁人さんが「歓迎会に行くよ」と悪戯っぽく誘ってくれ、私の手持ちのワンピースでも大丈夫な、カジュアルな、それでいてお洒落なビストロに連れて行ってくれた。
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翌日は大変だった。
暁人さんが言っていたように、外商なる人たちが家にやって来て、ハイブランドの服や靴、アクセサリーやらを並べたものだから、私は怯えて何も言えなくなってしまった。
すると女性スタッフが私に似合うアイテムを見繕ってくれ、基礎化粧品、コスメ、下着、服、靴、バッグ、アクセサリー、文房具や香水、部屋に置くオーディオ機器に至るまで、何から何まで揃えられてしまった。
プロがいいと思った物を決めてくれるのはありがたいけれど、一応私に似合うかどうか、好みかどうかも聞かれるので、すべてを決めて買い物を終える頃には一日が終わっていた。