八年執着されましたが、幸せです ~傷心のホテリエですが、イケメン御曹司と契約恋人になりました~
翌日の土曜日、私は仕事が休みなのをいい事に二度寝した。
暁人さんは土曜日も出勤する事があり、ゆっくりしていれば家からいなくなると思っての事だった。
十時前になり、私はパジャマにしているタンクトップとホットパンツ姿でリビングダイニングに向かう。
「あっ」
リビングのソファには暁人さんが座っていて、彼の姿を見た瞬間、動揺して声を漏らしてしまった。
「おはよう」
彼はいつものように微笑みかけてきたけれど、私はぎこちなく口角を上げるしかできない。
思わず彼の左手の薬指を見てしまったけれど、そこには指輪はなかった。
(……お願いだから、奥さんに誠実でいて)
直接そう言えたら、どれだけ良かっただろう。
私は微妙な笑みを浮かべて会釈をすると、キッチンに向かってウォーターサーバーから水を汲んで飲んだ。
「芳乃、今日は休みだよな?」
「……はい。暁人さんも?」
「俺は今日一日、オフだ」
彼は嬉しそうに笑い、それまで見ていたタブレット端末を横に置く。
「おいで。抱きしめさせて」
暁人さんはそう言って、両手を広げて私を求める。
今までなら、恥じらいつつも彼の膝の上に乗って応じていた。
でも暁人さんが既婚者だと知った今は、彼の言う事を聞くつもりはない。
「……あ、……の。……顔、洗わないと」
私は理由をつけ、洗面所に向かう。
リビングダイニングを出る時にチラッと暁人さんを盗み見すると、彼は誘いを断られると思っていなかったのか、瞠目して固まっていた。
(ごめんなさい。……でも)
私は気持ちをシャンとさせるため、顔を洗ってしっかりスキンケアをする。
洗面所に置いてあるのは、外商ショッピングの時に買ってもらった基礎化粧品だ。
他にもアイシャドウやリップなどの色物や、ブラシなどのツールも一通り揃えてもらった。
普通の男性なら、女性のメイク用品まで気が回らないだろう。
ここまで彼が細やかなのは、妻がいるからだと思うと、色んな事がしっくりくる。
同時に、耐えがたい事実がのし掛かってきた。
ウィルの時も暁人さんと出会っても、私は浮気相手で都合のいい女。〝本命〟から見れば浮気相手で、ただの邪魔者。
「う……っ」
考えれば考えるほどつらくなり、私はブラシを置くと、小さく嗚咽してズルズルとその場にしゃがみ込んだ。
声が出ないように静かに泣いていたつもりだったけれど、様子がおかしいと思ったのか、いつの間にか暁人さんが洗面所に来ていた。
「芳乃、何かあったか? 何でも言ってくれ」
暁人さんは床に膝をつき、私の顔を覗き込んでくる。
けれど私は首を横に振り、心配してくれる人の手をはね除けるしかできない。
「ごめんなさい……っ、私……っ」
何か言おうとした時、暁人さんは私を抱きしめてきた。
息が止まるほど強く抱かれ、彼のぬくもりやいつも纏っている香水の匂いを嗅ぎ、さらに切なさが募る。
――あなたが好きなんです。
私はわななく唇で、声には出さず、言ってはいけない告白をする。
「落ち着いて。大丈夫。……大丈夫だから」
暁人さんはトントンと私の背中を叩き、耳元で優しく「大丈夫」を繰り返す。
どれぐらい経っただろうか。
嗚咽が小さくなった頃、暁人さんは慈愛の籠もった目で見つめ、私の頬にキスをしてきた。
「……駄目……」
慰めてくれているのは分かるけれど、駄目だ。
私は弱々しく言い、彼の胸板を押し返す。
暁人さんは土曜日も出勤する事があり、ゆっくりしていれば家からいなくなると思っての事だった。
十時前になり、私はパジャマにしているタンクトップとホットパンツ姿でリビングダイニングに向かう。
「あっ」
リビングのソファには暁人さんが座っていて、彼の姿を見た瞬間、動揺して声を漏らしてしまった。
「おはよう」
彼はいつものように微笑みかけてきたけれど、私はぎこちなく口角を上げるしかできない。
思わず彼の左手の薬指を見てしまったけれど、そこには指輪はなかった。
(……お願いだから、奥さんに誠実でいて)
直接そう言えたら、どれだけ良かっただろう。
私は微妙な笑みを浮かべて会釈をすると、キッチンに向かってウォーターサーバーから水を汲んで飲んだ。
「芳乃、今日は休みだよな?」
「……はい。暁人さんも?」
「俺は今日一日、オフだ」
彼は嬉しそうに笑い、それまで見ていたタブレット端末を横に置く。
「おいで。抱きしめさせて」
暁人さんはそう言って、両手を広げて私を求める。
今までなら、恥じらいつつも彼の膝の上に乗って応じていた。
でも暁人さんが既婚者だと知った今は、彼の言う事を聞くつもりはない。
「……あ、……の。……顔、洗わないと」
私は理由をつけ、洗面所に向かう。
リビングダイニングを出る時にチラッと暁人さんを盗み見すると、彼は誘いを断られると思っていなかったのか、瞠目して固まっていた。
(ごめんなさい。……でも)
私は気持ちをシャンとさせるため、顔を洗ってしっかりスキンケアをする。
洗面所に置いてあるのは、外商ショッピングの時に買ってもらった基礎化粧品だ。
他にもアイシャドウやリップなどの色物や、ブラシなどのツールも一通り揃えてもらった。
普通の男性なら、女性のメイク用品まで気が回らないだろう。
ここまで彼が細やかなのは、妻がいるからだと思うと、色んな事がしっくりくる。
同時に、耐えがたい事実がのし掛かってきた。
ウィルの時も暁人さんと出会っても、私は浮気相手で都合のいい女。〝本命〟から見れば浮気相手で、ただの邪魔者。
「う……っ」
考えれば考えるほどつらくなり、私はブラシを置くと、小さく嗚咽してズルズルとその場にしゃがみ込んだ。
声が出ないように静かに泣いていたつもりだったけれど、様子がおかしいと思ったのか、いつの間にか暁人さんが洗面所に来ていた。
「芳乃、何かあったか? 何でも言ってくれ」
暁人さんは床に膝をつき、私の顔を覗き込んでくる。
けれど私は首を横に振り、心配してくれる人の手をはね除けるしかできない。
「ごめんなさい……っ、私……っ」
何か言おうとした時、暁人さんは私を抱きしめてきた。
息が止まるほど強く抱かれ、彼のぬくもりやいつも纏っている香水の匂いを嗅ぎ、さらに切なさが募る。
――あなたが好きなんです。
私はわななく唇で、声には出さず、言ってはいけない告白をする。
「落ち着いて。大丈夫。……大丈夫だから」
暁人さんはトントンと私の背中を叩き、耳元で優しく「大丈夫」を繰り返す。
どれぐらい経っただろうか。
嗚咽が小さくなった頃、暁人さんは慈愛の籠もった目で見つめ、私の頬にキスをしてきた。
「……駄目……」
慰めてくれているのは分かるけれど、駄目だ。
私は弱々しく言い、彼の胸板を押し返す。