八年執着されましたが、幸せです ~傷心のホテリエですが、イケメン御曹司と契約恋人になりました~
 そう言われ、困惑のあまり思考が停止する。

「……白銀さんが何を言っているのか分かりません……」

「三峯さんが混乱しているのは理解します。私があなたの立場なら、どうしたらいいか分からず、途方に暮れるでしょう」

 ――彼は絶対に〝何か〟を知っている。

「教えてください! 暁人さんは何を考えているんですか? グレースさんは……」

 私は縋るように白銀さんに詰め寄ったけれど、彼は動じずに首を左右に振るだけだ。

「副社長が何も仰っていないなら、私からは何も申し上げられません」

 消沈した私は、溜め息をついて肩を落とす。

 私の様子を見て、彼は慰めるように言った。

「それほど悲観しなくていいと思いますよ」

「どうしてですか?」

〝答え〟を求めて言葉を待つけれど、白銀さんは窓の外を見て言う。

「副社長はお若いですが、三峯さんが思っている以上にしっかりされた方です。あなたが想像しているような〝失態〟を犯す愚か者ではありません」

 彼の言葉を信じるなら、このまま暁人さんと一緒にいてもいいという事になる。

 でもハッキリとした事が分からない以上、私としても結論を下せない。

 少なくとも、これ以上〝浮気相手〟でい続けるのは嫌だ。

「考え事が纏まらない時、一旦それを放り投げて日々忙しく過ごしていれば、いつの間にか解決する事もあるものです。三峯さんのお気持ちは分かりますが、早まった真似はせず、今の生活を続ける事をお勧めします」

「ですが……。いつまでもグレースさんに隠し通せないでしょう」

 仮に普段、彼女が遠い場所――海外で生活しているとしても、先日のように来日しては暁人さんと会っているのは事実だ。

 何かの弾みで彼のマンションに上がる事もあるかもしれないし、その時に私と鉢合わせたら悲惨な事になる。

 そう思って言ったけれど、白銀さんは意外な事を言った。

「彼女は、副社長のマンションには絶対行きませんよ」

「え? ……でも私、先日バーでグレースさんが『いつか同じ家に住みましょう』って言っているのを聞いてしまったんです」

 恥ずかしいけれど、私は白銀さんに暁人さんを尾行してしまった事を打ち明けた。

 けれど、彼も譲らない。

「来ないものは来ないんです。それより……」

 白銀さんは溜め息混じりに言ったあと、脚を組み替えて言う。

「今秋、副社長がお迎えする海外の客人をご存じですか?」

「い、いえ……」

 突然話題が変わり、私は戸惑って首を横に振る。

 ホテルに関する事ならともかく、本社副社長のスケジュールを私たちが知る事はない。

「アメリカの〝ターナー&リゾーツ〟のCOOが、日本進出のために副社長に話をしたいと申し出ています」

「えっ!?」

 まさかここでウィルが現れると思わず、私は驚きの声を上げる。

「極秘でお願いします」

「は、はい……」

 暁人さんやグレースさんの事だけでなく、ウィルまでまた私の人生に登場しようとしていて、私は混乱のあまり呼吸を乱す。

「ウィリアム・ターナー氏は、神楽坂グループ最高峰の〝エデンズ・ホテル東京〟に宿泊するご予定です」

「…………はい」

 まさかウィルが職場に来るなんて……。

(でも、考えられない訳じゃない。東京は世界中から注目されているし、アジアと言えば香港やシンガポールなども経済の発展地として有名だ。グローバルな企業にしたいなら、東京に興味を持たないはずがない)

 そう思った時、ふ……と、自分が〝ゴールデン・ターナー〟でただ一人の日本人だった事を思い出した。

 そして、残酷な仮定も思いつく。

(……もしかして、日本や日本人の事を知りたくて私と付き合った?)

 思ってみれば、ウィルは私によく日本についての質問をしていた。

 日本のホテル業界は勿論、何が流行しているかとか、流行の中心になる年齢層はとか、東京のどのエリアにはどんな人がいるかとか、日本人的な考え方も『こういう事が起こったらどう思う?』と質問された。

 ――利用された?

 そう思った瞬間、ザ……と頭から血の気が引いていくのが分かった。
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