八年執着されましたが、幸せです ~傷心のホテリエですが、イケメン御曹司と契約恋人になりました~
「グレースを求める男は大勢いて、日本を拠点にした彼女は、一旦の男よけとして俺に恋人役を指名してきた。凄く嫌だったけど、彼女は姉みたいな存在だし、ビジネス的な感情で請け負った。恋人役は、頻繁にグレースと会ってイチャつくんじゃなく、彼女が『この日はヤバイ』と分かった時に〝相手〟に見せつける感じだった。重ねて言うけど、俺たちは姉弟みたいな関係で、お互い恋愛感情はまったく持ってない。グレースに聞いたとしても、俺の事を〝クソガキ〟って言って終わりだと思う。だから、変な関係ではないと信じてほしい」

「わ……かり、……ました」

 真実を聞いた瞬間、一気に力が抜けてしまった。

「……じゃあ、彼女が『一緒に暮らしたい』って言っていたのも……、演技?」

 安堵したあまり、私はバーで聞いてしまった言葉を口にする。

 暁人は私がどこで会話を聞いたか察したみたいだけど、特に言及しなかった。

「勿論、演技だ。指輪をしてグレースを一緒にいる時の会話、行動は全部演技だ。……グレースは自由気ままな上に天才肌で、感覚的についていけない。俺が好きなのは一緒にいて安らげる女性で、彼女ではないよ」

 暁人はそう言って私の頬を撫で、今度こそ本当に安心した私は、また涙を零してしまった。

「ごめんなさい……っ。こんな面倒くさい女じゃなかったのに……っ。いや、面倒くさいのかな。もー……、分かんない……」

 安心した私は次から次に零れる涙を拭い、笑いながら泣く。

「他に聞きたい事はない? 不安に思っている事はない?」

 暁人は私の髪を撫で、優しく聞いてくる。

「うん……。もう、大丈夫」

 これで暁人に関する不安はすべて消えた。

 でも〝エデンズ・ホテル東京〟に滞在しているウィルとレティを思い出した私は、少し気持ちを重たくする。

 暁人は私の胸中を察したように言った。

「ターナー氏たちの事は心配しないで。俺がうまくやるから」

 私が失態を犯してしまったあとも、彼は副社長として上手く立ち回ってくれたのだろう。

「ありがとう。……あぁ、思い切って話して良かった」

「俺も、誤解が全部解けて良かった」

 私たちは照れながら抱き合い、おずおずとキスをして笑う。

 暁人は私を抱き締めたまま、溜め息混じりに言った。

「ずっと、どうやって解決するべきか悩んでいた。……祖父には『隠し事はなしにしろ』と言われたけれど、なるべく格好悪い自分を隠したいという浅ましい感情を持っていたんだ。でも芳乃は二億円の負債を俺が肩代わりした事で負い目を持ち、そんな俺が雇用主になった事で、余計に気負いすぎているように思えた。……今は新しい職場に慣れる事を優先すべきだろうかと思い、色々と先延ばしにしてしまった。……君との生活が凄く楽しくて、まるで新婚生活みたいに思えて、その関係を崩したくなかったのもある。……いっぽうでグレースとの事は、数か月に一度〝ふり〟をするだけだから、君が気づいていると思っていなかったんだ。……でも、言わなかった事が芳乃を苦しめていたね。ごめん、謝る」

 確かに、先に教えてくれればこんなに悩まなかったかもしれない。

 でも仮に私が数か月に一度、恋愛感情を持たない幼馴染みに会うとしたら、相手を紹介する訳じゃないなら、「人に会ってくる」と言って済ませる事もあると思う。

 お互い大人なんだから、交友関係のすべてをいちいち説明する必要はないと思うから。

「……もういい。安心できたから、もう大丈夫」

 彼が〝仁科悠人〟くんだったと知っただけで、無条件に信じられるし、暁人として再会したあとの言動を振り返っても、私は愛されていたと実感できる。

「ん、良かった」

 暁人は嬉しそうに笑ったあと、少し照れくさそうに言った。

「芳乃……。君がほしい」

 求められても、もう抵抗する理由はなかった。

「……うん。いいよ」

 八年前に振ってしまった彼が、今も私を求めてくれている。

 嬉しくて堪らず、とろりとした愉悦が私を満たす。

 私たちは見つめ合い、惹かれ合うように唇を寄せ、キスをする。

 ちゅ、ちゅ、と何度も優しい口づけを交わすなか、暁人は私の肌を辿っていった。

 以前にも愛されたのに、まるで初めて彼に抱かれるような気持ちになる。

「芳乃……。俺のものだ」

 暁人は耳元で囁いたあと、耳たぶを甘噛みし、乳房を揉みながら首筋にキスをしていく。

「ん……っ、あ……っ」

 私はあえかな声を漏らし、彼の髪を指で梳く。

 私を押し倒した暁人は、性急な手つきでワンピースを脱がし、ブラのホックを外す。

「綺麗だ、芳乃」

 私を見つめる暁人の視線は甘く、恥ずかしくて目を逸らすけれど、嬉しくてまたチラリと見てしまう。

 ――いつの間にか、私は彼の甘い罠に雁字搦めにされていた。

 そう思うものの、本当に彼みたいに素敵な人がずっとフリーだったのか疑ってしまう。

「……本当に付き合っていた人はいないの?」

 尋ねると、暁人は言いづらそうに白状する。
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