二度目の永遠~ある夏にコロラドで見つけた牧場主との運命の恋~
【春子の章】

『月の綺麗な夜ですね』


 過去──春子の章




『月の綺麗な夜ですね』
 くっきりと空に浮かんだ夏夜の満月を見上げながら、異国の兵隊は春子にわかりやすいように、ゆっくりとそうささやいた。
 まったくその通りだと思ったので、春子はこくりとうなずいた。

『でも、暑い、ですね。日本の夏は、あなたには、厳しい、でしょう』

 どこまで合っているかわからない。
 春子の口から出る異国の言葉は、彼が口にする滑らかな調子とはうってかわって朴訥としていた。もっと上手に喋れたらと思うけれど、いくら単語を勉強しても、重い発音はなかなか直らなかった。

『僕の故郷も夏はとても暑いですよ。ここまで蒸し暑くはないが』と言って、異国の男は春子に視線を移した。
 彼の青い瞳は月の光を浴びてさらに澄んで見えた。
 春子の鼓動はトクトクと高鳴った。

『君にもいつか見て欲しい。コロラドの自然は美しいから』

 ころ、らど。
 どんな場所なんだろう。彼はそこで育ったという。彼のような大きなひとが育つのだから、きっと雄大な大地と、豊富な食料があるのではないかと思う。

『はい。わたしでも、いつか行けますでしょうか』
 春子は切なくささやいた。
 そういった希望がないわけではない。でも、夢を見るには春子は厳しすぎる現実を生きてきた。みんなそうだ。
 戦争は終わったのかもしれないけれど、春子のような市井の人間にとって、生き残りを賭けた戦いはこれからなのだ。

『僕が連れていってあげます。ハルコさん。僕と一緒に来てくれますか?』
『まあ』

 春子はコロコロと笑った。彼の表情が、ちょっと可哀想になるくらい真剣だったからだ。
 もしかしたら彼は緊張しているのだろうか? だってほら、彼の両手は脇できつく握られている。
 異国の兵隊さんというのは、もっと無節操な気分屋で移り気なのかと思っていた。実際、みんなそうだと言う。でも彼はまったく違った。
< 1 / 287 >

この作品をシェア

pagetop