婚約者にバカにされ続けた侯爵令嬢が「ざまぁ」するに至るまで
 やがて馬車が止まり、エリオットが先に降り、ミラジェーンもそれに続いた。

 荘厳華麗な劇場であったが、一階席の奥まった箇所や、階段や柱の影になる席は一般庶民にも開放されており、人気を博していた。

 上階の横手、カーテンで仕切られた個室のバルコニー席に着くと、エリオットは眉をひそめた。


「我々があのような民草と肩を並べて観劇とはね。君はこの劇場に来たことがあるのかい?」

「はい、何度かございます。素晴らしい劇場でございますわね」

「そ、そうなのか……君にも付き合いがあるだろうからね」


 ミラジェーンはにこりと微笑んだ。

 リサーナと訪れることもあれば、父ブライズ侯爵から譲られたチケットで兄アドルフと来たこともある。

 エリオットの姉ルーシーに誘われ、第一王子とルーシー、そしてエースと四人で訪れたこともあったが、それは口にしないほうがよいと判断した。


「しかし、このような良い席には座れないだろう?」

「とても良い席を用意してくださったんですね」

「もちろん。ところで僕は劇には詳しくないのだが、今期の上演内容はどういったものなのだろう?」


 ミラジェーンは少なからず驚いた。

 彼女から見たエリオットはおどおどとしているが、プライドが高い。それゆえ自ら「詳しくない」「どういったものだろう」などと尋ねてくるとは思っておらず、問われたことを嬉しく思った。


「はい。今期の作品は十年ほど前に大流行した歴史恋愛ものの再演でございます。ですが、ただの再演ではなく、脚本を一から現代に即して書き直した大作でして……」


 エリオットはミラジェーンの話を最後まで聞き、小さく頷いた。


「やはり女子供はそういう色恋沙汰を好むのだね。僕にはよくわからないが」

「個人差があるとは存じますが、女性人気が高いのは仰るとおりです。だからこそ劇場全体の雰囲気を明るくし、チケットやチラシも女性の目を引きやすい色やデザインに配慮されております。劇そのものだけでなく、そこに至るまでの趣向にもこだわっていらっしゃいますわね」

「……君の楽しみ方は他のご令嬢とはずいぶん違うようだが、まあ楽しんでくれたのなら、こちらも付き合う甲斐があるというものだよ」


 エリオットが言い終えると同時に、劇場内にラッパの音が響いた。

 二人が舞台の中央を見ると、小柄な道化師が玩具のようなラッパを吹き鳴らしながら駆けてくる。

 そして観劇の際の注意事項を説明し、物語の導入を語ると、くるくると踊りながら舞台袖へと消えていった。

 ミラジェーンは目を輝かせ、舞台に注目した。

 ……兄と来るときは小声で衣装や小道具、大道具の値段を予想し、エースと来たときは彼から物語の歴史的背景を教わりながら観るのだが、ちらりと見たエリオットは毛ほどにも興味がなさそうであったため、ミラジェーンは黙ったまま舞台を見つめた。


< 15 / 22 >

この作品をシェア

pagetop