婚約者にバカにされ続けた侯爵令嬢が「ざまぁ」するに至るまで
 ミラジェーンはエースと別れて自室へ戻った。オリン婦人と作ったドレスを侍女に着せてもらい、玄関ホールへ姿を現した。

 母と最後の打ち合わせを行い、着替えを終えた父と兄とともに、客人らが待つ控室へと向かった。

 パーティの最初、ミラジェーンは両親と兄と共に挨拶に勤しんでいた。

 今回の主賓は第一王子と婚約者のルーシー・オリン、次いでエース、さらにオリン公爵夫妻と長男エリオットと続く。


「ルーシー様、ご無沙汰しております」

「久しぶりね、ミラ。次に王城に来るのはいつ? 一緒にお茶でもどう?」

「ぜひ。来週参りますわ」

「ミラ嬢が来てくれるとルーシーが楽しそうで僕も嬉しいよ」


 そう言っておっとりと微笑んだのは第一王子アッシュで、ルーシーと仲睦まじく肩を並べていた。

 その隣にはエースも並んでいた。


「先ほど会ったばかりだというのに、見違えるように美しく、目が眩みそうだ。ミラ、一曲踊ってもらってもいいかな」

「殿下、自重なさってください」

「わかっているさ。そのドレス、よく似合っている。今度、俺からも新しいドレスとアクセサリーを贈らせてほしい」

「殿下……」


 ミラジェーンにじとりと睨まれ、エースは苦笑した。


「最初のダンスは君と婚約者殿、その次が主賓の兄上と義姉上、そのあとでいいよ。みんな好きに踊るのだろう?」

「婚約者がいるのに他の殿方と踊るのはいかがなものかと」

「それを指摘する者はいないと思うけれどね」


 アッシュが苦笑し、隣に並ぶルーシーも呆れたようにため息をついた。


「父がエリオットの婚約を強硬に推し進めたものだから……」

「そのせいで弟の機嫌が悪くて仕方がない」

「エース殿下は出遅れたことを悔やむのですね」

「兄さんも義姉さんも好き放題言って。ともかく、君と二番目に踊るのは俺だ。予約したから、よろしく頼むよ」

「承知いたしました。ですが殿下も引く手あまたでいらっしゃいますでしょうし、他の皆様と交流なさってくださいませ」

「嫌だ!」

「殿下!?」


 そのままエースは、アッシュとルーシーとともにブライズ侯爵夫妻と挨拶を交わし、去って行った。

 続いてオリン公爵夫妻とエリオットがやって来た。オリン公爵夫妻はブライズ侯爵夫妻と挨拶を交わしている。

「ミラ、君は主催なのだから、今日はあまり挨拶回りはしないのだろう?」


 エリオットは挨拶もそこそこにミラジェーンに問いかけた。


「はい、そのつもりでおります。ですので、エリオット様もそのようにお願いいたします」

「えっ、なんで?」


 目を丸くしたエリオットに、ミラジェーンも隣にいた兄のアドルフも同じように目を丸くした。


「それは、君がミラの婚約者だからだろう。まさか君、婚約者である妹を放って遊び歩こうとしていたのかい?」

「そ、そういうわけではありませんが……」

「何かご用事がありますの?」

「ま、まあ、そのようなところかな……それに主催はブライズ侯爵家なのだから、公爵家の僕には関係ないだろう」

「関係ない?」


 アドルフが大きな声で聞き返した。

 ミラジェーンがアドルフのスーツの裾を軽く引いたが、アドルフはエリオットに詰め寄った。


「それは、どういうつもりだい?」

「ど、どうもこうも……言葉の通りだ。これはミラがオリン公爵家に嫁いだ際、オリン公爵夫人として恥ずかしくないよう練習しているのだろう。それなのに僕が出しゃばれば、ミラの練習にならないじゃないか」


 エリオットの言い分を最後まで聞いたアドルフは、顔をしかめてミラジェーンに振り返った。


「……ミラ」

「は、はい。なんでしょうか、お兄様」

「つまみ出してくる」

「ちょ、それは」

「何を騒いでいるのだ、アドルフ」


 騒ぎに気づいたブライズ侯爵が、アドルフを止めた。

 同時にオリン公爵夫妻もエリオットの側にやって来た。


「どうしたのだ、エリオット。アドルフくんと何かあったのか。ミラ嬢がずいぶん困った顔をしているではないか。人前でレディに恥をかかせるのは感心しないな」

「む、向こうが責任を押しつけようとしてきたから……。と、ともかくそういうことだ。僕は僕のやるべきことがあるから、失礼する」


 公爵夫妻が止める間もなく、エリオットは立ち去った。


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