婚約者にバカにされ続けた侯爵令嬢が「ざまぁ」するに至るまで
 夕食も終わりの頃、ミラジェーンの話を聞き終えたブライズ侯爵夫人は、黙したままコーヒーをすすった。


「そうね、殿方とは得てしてそういう面があるものですから」

「そういう?」


 アドルフが険のある声で問いかける。

 ミラジェーンは首をかしげながら、まだスープを飲んでいた。


「気を許しているからこそ、ついてきていると思ったり、手をかけずとも自分に都合よく振る舞っていると思っている……ことが多いような……」

「母上、ずいぶん発言が曖昧になってきたけれど、つまり?」


 アドルフの口調がからかいを含み、夫人も苦笑した。


「つまり、あなたに対して気を許しているのではないかしら。それはそれで悪いことではありませんけれど、エスコートの一つくらいはしっかりしてほしいわね」

「本当だよ。迎えに来ても、ろくに頭の一つも下げやしない」

「そこはミラ、あなたが手綱を締めなさいな。で、もう一件のほうも気になりますね」


 夫人とアドルフが同時にミラジェーンへ視線を向けた。

 ミラジェーンはスープを飲み終え、口元を拭った。


「あの画廊に飾られていた作品は、大半が贋作かと。王宮の画廊に飾られていた品も、いくつか見受けられましたし」

「王宮の画廊は王族と招かれた貴族しか入れませんから、知らぬ者も多いのでしょうね。わたくしもお父様に嫁いだ際、国王陛下がお祝いにと招いてくださった折くらいで……」

「俺は入ったことがないなあ」

「私は十歳になった際、エース殿下がお祝いにと入れてくださったのです。誰にも許可を得ていなかったそうで、事後にいたく叱られましたが」

「……当時の殿下は七歳か八歳だろう? そんな前からミラに甘かったのか、殿下は」


 呆れ顔のアドルフをよそに、ミラジェーンはブライズ侯爵夫人へ視線を向けた。


「王都に贋作を流布する商人が入り込んでいるのは、看過できませんね」

「ええ、お父様のお耳に入れておきましょう。それに、伯爵が堂々とあなたたちに絵画を自慢されたのであれば、彼も被害者です。対応が必要でしょう」


 夫人は侍女を呼びつけ、小声で指示を出した。

 ミラジェーンはエリオットにエスコートについてどのように指摘すべきか思い悩みながら立ち上がった。
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