婚約者にバカにされ続けた侯爵令嬢が「ざまぁ」するに至るまで
「うーん、わかった」
一通りの確認を終え、アッシュが唸った。
外は既に陽が傾いていた。
「伯爵がどの経路で絵画を手にしたかは、俺の方で確認する。」
「お待ちください。城内の画廊と同じ品もありますし、先に王妃殿下にご報告を」
ルーシーがアッシュを制した。
アッシュは少し嫌そうに首を傾げた。
「必要かな」
「必要に決まってるでしょう」
ルーシーが目をつり上げ、アッシュは後ずさった。
「そもそも、画廊に入ろうとしたことも、間違いなく妃殿下に報告が上がっているはずです。聞かれる前にさっさと報告することで責任の所在を明確にすべきです」
「……そうだね。母にあれこれ問われるのが面倒……いや、行く。行きます」
じろりと睨まれ、アッシュは苦笑した。
その様子を、ミラジェーンはどこか不思議な気持ちで見ていた。
「報告と確認をありがとう、ミラジェーン嬢。ここから先は俺の方で引き取らせてもらうから、ブライズ卿にもそう伝えてほしい。今後どうなったかは、ルーシーから聞いてくれ。ルーシー、それでいいかい?」
「もちろんでございます、殿下。今のお時間でしたら、妃殿下は王城入口付近の庭園にいらっしゃると思いますわ。さあ、行きましょう。またね、ミラ。結果は期待しておいてちょうだい」
「なぜ母がそこにいると知っているんだい……?」
首を傾げるアッシュを伴い、ルーシーはドレスを翻して去っていった。
ミラジェーンもそれに続き、図書室を出て王城の入口へと向かった。
アッシュは第一王子だ。
若年ながらも貫禄が備わり、先程のようにミラジェーンの報告にもきちんと耳を傾けていた。もっとも、それはブライズ侯爵の事前の根回しあってのことでもあるのだが。
しかし、第一王子としての責任をいかに果たそうとも、ルーシーには常に丁寧に接し、彼女を尊重しているように見えた。
ルーシーは気が強く、指摘もはっきりと口にすることが多いが、アッシュはそれを機嫌を損ねることなく受け入れていた。
アッシュはいつも穏やかな眼差しでルーシーを見つめており、その仲睦まじい様子はミラジェーンの憧れでもあった。
「……わたくしたちは、そのように見えるのかしら」
ミラジェーンは思わず呟いた。
侍女はその背後で唇を噛み、うつむいていた。
ふとミラジェーンが廊下から外に目を向けると、中庭の訓練場でエースが剣の稽古をしていた。
実戦で用いることはなくとも、模擬試合や祭りの催しでアッシュとエースが腕前を披露し、演舞を行うこともあるため、日々の稽古は欠かさない――と、ミラジェーンはかつてエースから聞いていた。
夕日に照らされたエースは、師範代と思しき年配の男に木剣で幾度も挑み、軽くいなされては地面に転がされていた。
見る間にエースの訓練着は砂にまみれ、彼の(今日は)黒い髪も乱れていった。それでも止まることなく、エースは挑み続けていた。
ミラジェーンはその勇ましい姿から目を逸らし、ブライズ侯爵家の馬車へと向かった。
一通りの確認を終え、アッシュが唸った。
外は既に陽が傾いていた。
「伯爵がどの経路で絵画を手にしたかは、俺の方で確認する。」
「お待ちください。城内の画廊と同じ品もありますし、先に王妃殿下にご報告を」
ルーシーがアッシュを制した。
アッシュは少し嫌そうに首を傾げた。
「必要かな」
「必要に決まってるでしょう」
ルーシーが目をつり上げ、アッシュは後ずさった。
「そもそも、画廊に入ろうとしたことも、間違いなく妃殿下に報告が上がっているはずです。聞かれる前にさっさと報告することで責任の所在を明確にすべきです」
「……そうだね。母にあれこれ問われるのが面倒……いや、行く。行きます」
じろりと睨まれ、アッシュは苦笑した。
その様子を、ミラジェーンはどこか不思議な気持ちで見ていた。
「報告と確認をありがとう、ミラジェーン嬢。ここから先は俺の方で引き取らせてもらうから、ブライズ卿にもそう伝えてほしい。今後どうなったかは、ルーシーから聞いてくれ。ルーシー、それでいいかい?」
「もちろんでございます、殿下。今のお時間でしたら、妃殿下は王城入口付近の庭園にいらっしゃると思いますわ。さあ、行きましょう。またね、ミラ。結果は期待しておいてちょうだい」
「なぜ母がそこにいると知っているんだい……?」
首を傾げるアッシュを伴い、ルーシーはドレスを翻して去っていった。
ミラジェーンもそれに続き、図書室を出て王城の入口へと向かった。
アッシュは第一王子だ。
若年ながらも貫禄が備わり、先程のようにミラジェーンの報告にもきちんと耳を傾けていた。もっとも、それはブライズ侯爵の事前の根回しあってのことでもあるのだが。
しかし、第一王子としての責任をいかに果たそうとも、ルーシーには常に丁寧に接し、彼女を尊重しているように見えた。
ルーシーは気が強く、指摘もはっきりと口にすることが多いが、アッシュはそれを機嫌を損ねることなく受け入れていた。
アッシュはいつも穏やかな眼差しでルーシーを見つめており、その仲睦まじい様子はミラジェーンの憧れでもあった。
「……わたくしたちは、そのように見えるのかしら」
ミラジェーンは思わず呟いた。
侍女はその背後で唇を噛み、うつむいていた。
ふとミラジェーンが廊下から外に目を向けると、中庭の訓練場でエースが剣の稽古をしていた。
実戦で用いることはなくとも、模擬試合や祭りの催しでアッシュとエースが腕前を披露し、演舞を行うこともあるため、日々の稽古は欠かさない――と、ミラジェーンはかつてエースから聞いていた。
夕日に照らされたエースは、師範代と思しき年配の男に木剣で幾度も挑み、軽くいなされては地面に転がされていた。
見る間にエースの訓練着は砂にまみれ、彼の(今日は)黒い髪も乱れていった。それでも止まることなく、エースは挑み続けていた。
ミラジェーンはその勇ましい姿から目を逸らし、ブライズ侯爵家の馬車へと向かった。