婚約者にバカにされ続けた侯爵令嬢が「ざまぁ」するに至るまで
 その後もエリオットは時折ミラジェーンの登城を咎めた。

 表だって止めろと言うわけではない。

 やんわりとほのめかす程度ではあるが、ときには率直に


「王宮の財務官たちは優秀なんだから、君が行かなくたっていいだろう」

「もう登城は終えていいだろう。オリン公爵家の次期夫人として母に教えを請うべきだ」

「いつまで男気取りでいるつもりなんだい」


 と、ミラジェーンの登城に対して不快感を示すようになった。


 たいていのことはやんわりと受け流し、あるいは妥協してきたミラジェーンだが、こればかりは譲らなかった。

 たしかにミラジェーンが顔を出さずともよい場面もいくらかはあったが、基本的には名指しで呼ばれていたため、行かないわけにはいかなかった。

 仕事ではない場合でも、ルーシーやエースの相談相手として、以前より頻繁に登城するようになっていた。


「ですが、ルーシー様からお声がかかっておりますの……エリオット様からお断りを入れていただけますか?」

「そっ……そうか。すまないね、姉がワガママで」


 ルーシーの名前を出すとエリオットが引くことに気づいたミラジェーンは、ときおりルーシーの名を借りてやり過ごした(心の中でルーシーには謝っていた)。


「じゃあ今回の登城は許すけど、その分次回のデートでは僕の行きたいところを優先させてくれよ」

「かしこまりました」


 そうしたやり取りが降り積もっていった。


 なぜ、オリン公爵家に嫁ぐために引き継ぎを行っているにもかかわらず、頭を下げて登城しなければならないのか、ミラジェーンにはわからなかった。

 しかし、そうでもしなければ自身の仕事の障害となりつつあるエリオットに対し、ミラジェーンの心中には着実に困惑や忌避感が澱のように溜まっていった。
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