婚約者にバカにされ続けた侯爵令嬢が「ざまぁ」するに至るまで
 挨拶の後、エリオットは友人らと談笑に耽っていた。

 ミラジェーンもその近くで親しい令嬢らとともに、供された菓子に舌鼓を打っていると、ふいに向かいにいた令嬢が目を丸くした。


「いかがなさいましたの……殿下」


 令嬢らの輪に加わったのは、第二王子エースであった。

 美しい容貌と穏やかな笑みに、周囲の令嬢たちが息をのむ中、ミラジェーンは眉をひそめた。


「殿下、何かご用にございますか」

「俺にもちょうだい」

「こちらの焼き菓子がおすすめでございますわ」

「食べさせてくれ」

「殿下」

「手袋が汚れる」

「……殿下」


 エースの甘やかな声に、ミラジェーンは低く応じた。

 それを聞いたエースは、いよいよ笑みを深くし、彼女の耳元でささやこうとしたが、その前に別の方向から声がかかった。


「第二王子殿下、よろしければ私どもともお話いただけませんか?」


 エリオットだった。

 いつの間にかミラジェーンの真後ろに立っていたエリオットは、笑顔でエースを見つめていた。

 ミラジェーンは、ふっと息を吐いた。


「殿下、ぜひ皆様とお話なさってくださいませ。普段、殿下は王城に籠もっておいでで、なかなかお話しする機会もございませんもの」


 エースは一瞬ミラジェーンを睨み、それからエリオットへと振り向いた。


「ああ、君はさきほど俺の従姉妹たちを助けてくれたという、勇気ある公爵令息じゃないか。ぜひとも話を聞きたかったんだ。ミラの婚約者なのだろう?」


 エリオットは意気揚々と、先程双子とぶつかった経緯を話し始めた。

 ミラジェーンには、ずいぶんと大げさな話しぶりに聞こえたが、口を挟まず、侍女に耳打ちした。


「ところで殿下は我が婚約者と何かお話を?」

「ああ、ミラにおすすめの菓子を聞いていたんだ」


 エースの返事に、エリオットは口元を歪めた。


「さようですか。女子は甘い物に目がありませんものね。たまには政治など、意義あることをお話しいただきたいものですが」

「殿下」


 言いかけたエリオットの言葉を、ミラジェーンは静かに遮った。


「このあたりが殿下のお口にあうと思います」

「ありがと。よくわかってる」


 眉をひそめかけたエリオットに、ミラジェーンはにこりと微笑んだ。


「エース殿下は甘い物に目がありませんの。とりわけ焼き菓子を好まれますわね」

「うん。どうにもまだ舌が子どもでね。早くミラの年頃に追いつきたいのだけれど」

「難しいご相談ですわね。そういえば、エリオット様がいらした卓にも、片手でいただけそうなガレットがございましたよね」

「あ、ああ。塩気が利いていて、とても美味しかった。殿下もぜひ……」

「ありがとう。気が利くね」


 笑顔でそれを受け取ったエースに、エリオットは口角を上げた。

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