婚約者にバカにされ続けた侯爵令嬢が「ざまぁ」するに至るまで
 花見から数日後、ミラジェーンが兄のアドルフと侯爵家の前年度の支出を見直していると、ブライズ侯爵が顔を出した。


「エリオットくんはずいぶん評判がいいらしいね」

「そうなのですか?」

「ミラもその場にいたのではないかね?」


 ブライズ侯爵は嬉しげに語り始めた。

 先日の花見でアンナマリーとエルレインを助けた件と、エースと歓談した件が、大袈裟に広まっているらしい。


「お二方が大怪我をなさりかけたのをエリオットくんが身を挺してお守りしたのだろう?」

「そうとも、言えなくもない……かもしれませんわね」


 ミラジェーンは、わずかに首を傾げながら頷いた。

 双子と第二王子への失礼については、どうやら広まっていないらしい。

 エースがミラジェーンの顔を立てたのであろうことは分かっていたため、彼女は何も言わなかった。

 次に登城する折に何か手土産を用意しようかとミラジェーンが考えていると、アドルフが顔を上げた。


「ミラ」

「何かしら」

「この間エース殿下にお目にかかった折、お前が花嫁修行の一環で刺繍を練習しているとお伝えしたところ、ハンカチをお望みであったよ」

「婚約者のある身で他の殿方にお渡ししていいのかしら」

「いいんじゃない?」


 アドルフはさして気にも留めぬ様子で言った。


「臣下の礼とでも言えば、大抵のことは許されるだろう」

「ずいぶんと大雑把ですのね」

「何しろお前の兄だから」

「違いありませんわ」


 ミラジェーンは近くにいた侍女に声をかけ、ハンカチと紫の刺繍糸を用意するよう命じた。
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