泣き虫の白者
第1話 倉庫の夕暮れ
都心の港近く、古びた倉庫街。
錆びたシャッターが半分開いたままの建物に、夕陽が赤黒く差し込んでいる。
「泣き虫ぃ! まだ息してんのかよ、かかってこいってんだろ!」
低い、掠れた声が倉庫内に響く。 煙草の煙がゆらゆらと立ち上り、薄暗い空間に不健康なオレンジを広げていく。
白い髪。白い瞳。まるで色素を全部抜かれたような男——泣き虫の白者(しろもの)が、よろよろと立ち上がった。
「……返せ」
小さな、震える声。 それでもはっきりと、言葉は届く。
「は? 何? 聞こえねぇよ」
暴力団のリーダー、灰皿代わりに生きてる人間を使うのが趣味だと言われる男が、にやりと歯を見せる。 指の間には常に煙草。今日はもう十七本目だ。
「……返せ」
白者の言葉に、男の目が一瞬だけ細くなる。 そして次の瞬間——
バキィッ!
男の踵が、白者の顎を正確に捉えた。白い髪が宙を舞い、血の飛沫がコンクリートに散る。
「うっ……ぐ……」
白者は膝をつきながらも、すぐに立ち上がろうとする。 その執念に、男は一瞬だけ感心したような顔をしたが——すぐに嘲笑に変わる。
「まだ立てんのかよ、化け物みてぇな野郎だな」
男が一歩踏み込み、今度はアッパーを白者の腹に叩き込む。 鈍い音。内臓が潰れるような嫌な感触が拳に伝わる。
ゴォンッ!
白者の巨体が後方へ吹っ飛び、鉄骨とコンクリートの壁に激突。 壁に蜘蛛の巣のようなヒビが入り、埃が舞った。
「……ははははははっ! いい音したな!」
男の哄笑が倉庫に反響する。
そこへ、男の舎弟四人がニヤニヤしながら近づいてきた。 鉄パイプ、スチールトゥのブーツ、鎖。 それぞれが自分のお気に入りの「玩具」を手にしている。
「生きてるか確認してやろうぜ、リーダー」
「へい!」
最初の一発は腹に。続いて顔面、脇腹、背中、腎臓。蹴り、殴り、踏みつけ。 容赦なく、機械的に、しかし楽しそうに。
「……う……」
白者の口から血と胃液が混じったものが溢れる。 それでも——
「……返せ……」
掠れた声が、まだ途切れていない。
「うっぜぇなコイツ!」
舎弟の一人が苛立ったように、白者の白髪を掴んで顔を上げさせる。 もう片方の手で頬を何度もビンタ。パチン、パチン、パチパチパチン。
「死ねよ。死ね死ね死ね死ね——!」
最後は男が一歩前に出た。彼はくわえていた煙草を指で摘み、ゆっくりと、まるで愛撫するように 白者の額に押し付けた。
ジュゥゥ……ッ
肉の焼ける音と、焦げた髪の臭いが広がる。
「終わりだ」
男はそう呟くと、煙草を白者の髪にグリグリとねじ込み、そのままポイと捨てた。
「行くぞ」
四人の舎弟がへらへら笑いながら後に続く。 シャッターがガラガラと閉まる音。 足音が遠ざかり、倉庫の中には——
血溜まりと、微かに震える白い指先だけが残った。
夕陽が完全に落ちきる寸前。 白者の白い瞳が、薄暗闇の中で、かすかに光った。
まるで、まだ燃え尽きていない炎のように。
錆びたシャッターが半分開いたままの建物に、夕陽が赤黒く差し込んでいる。
「泣き虫ぃ! まだ息してんのかよ、かかってこいってんだろ!」
低い、掠れた声が倉庫内に響く。 煙草の煙がゆらゆらと立ち上り、薄暗い空間に不健康なオレンジを広げていく。
白い髪。白い瞳。まるで色素を全部抜かれたような男——泣き虫の白者(しろもの)が、よろよろと立ち上がった。
「……返せ」
小さな、震える声。 それでもはっきりと、言葉は届く。
「は? 何? 聞こえねぇよ」
暴力団のリーダー、灰皿代わりに生きてる人間を使うのが趣味だと言われる男が、にやりと歯を見せる。 指の間には常に煙草。今日はもう十七本目だ。
「……返せ」
白者の言葉に、男の目が一瞬だけ細くなる。 そして次の瞬間——
バキィッ!
男の踵が、白者の顎を正確に捉えた。白い髪が宙を舞い、血の飛沫がコンクリートに散る。
「うっ……ぐ……」
白者は膝をつきながらも、すぐに立ち上がろうとする。 その執念に、男は一瞬だけ感心したような顔をしたが——すぐに嘲笑に変わる。
「まだ立てんのかよ、化け物みてぇな野郎だな」
男が一歩踏み込み、今度はアッパーを白者の腹に叩き込む。 鈍い音。内臓が潰れるような嫌な感触が拳に伝わる。
ゴォンッ!
白者の巨体が後方へ吹っ飛び、鉄骨とコンクリートの壁に激突。 壁に蜘蛛の巣のようなヒビが入り、埃が舞った。
「……ははははははっ! いい音したな!」
男の哄笑が倉庫に反響する。
そこへ、男の舎弟四人がニヤニヤしながら近づいてきた。 鉄パイプ、スチールトゥのブーツ、鎖。 それぞれが自分のお気に入りの「玩具」を手にしている。
「生きてるか確認してやろうぜ、リーダー」
「へい!」
最初の一発は腹に。続いて顔面、脇腹、背中、腎臓。蹴り、殴り、踏みつけ。 容赦なく、機械的に、しかし楽しそうに。
「……う……」
白者の口から血と胃液が混じったものが溢れる。 それでも——
「……返せ……」
掠れた声が、まだ途切れていない。
「うっぜぇなコイツ!」
舎弟の一人が苛立ったように、白者の白髪を掴んで顔を上げさせる。 もう片方の手で頬を何度もビンタ。パチン、パチン、パチパチパチン。
「死ねよ。死ね死ね死ね死ね——!」
最後は男が一歩前に出た。彼はくわえていた煙草を指で摘み、ゆっくりと、まるで愛撫するように 白者の額に押し付けた。
ジュゥゥ……ッ
肉の焼ける音と、焦げた髪の臭いが広がる。
「終わりだ」
男はそう呟くと、煙草を白者の髪にグリグリとねじ込み、そのままポイと捨てた。
「行くぞ」
四人の舎弟がへらへら笑いながら後に続く。 シャッターがガラガラと閉まる音。 足音が遠ざかり、倉庫の中には——
血溜まりと、微かに震える白い指先だけが残った。
夕陽が完全に落ちきる寸前。 白者の白い瞳が、薄暗闇の中で、かすかに光った。
まるで、まだ燃え尽きていない炎のように。
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