雨のち花憑き
「おーい! きたきた!今日は何持ってきたんだ?」
境内に足を踏み入れた瞬間、屋根の上からクロが飛び出してきた。
その隣には、すでにお茶の用意を済ませたハクが、にこにこと手招きしている。
「いらっしゃい、鈴花さん。今日は天満様も、少しだけ機嫌が良さそうですよ」
縁側に腰を下ろし、三人でお菓子を囲む。
キラキラした琥珀糖を見たクロは、「なんだこれ、石か?」と疑り深い目を向けたが、一口食べるとその繊細な甘さに、またしても尻尾をプロペラのように回転させた。
「⋯⋯んんんっ! しゃりしゃりして、美味いじゃねーか! 人間、なかなかセンスあるな!」
「クロはまだ鈴花さんのことを、人間呼ばわりしているのですね」
「べ、別に合ってるだろ!?」
「どっちでもいいですよ。ハクくん、こっちの落雁も食べてみてください」
「おや、これは口の中で雪のように溶けますねぇ⋯⋯。現世の人は、こんなにも繊細なものを食べているのですね」
和気あいあいとした、ささやかな宴。
天満は、少し離れた柱の陰から、その様子を静かに見つめていた。
「⋯⋯あ、天満」
鈴花が呼び捨てで呼ぶと、ハクとクロが「おぉ⋯⋯」と感嘆の声を漏らす。
天満は、ため息をつくようにゆっくりと歩み寄り、鈴花の隣に腰を下ろした。
「⋯⋯また、騒がしいな」
そう言いながらも、彼の手は、鈴花が差し出した琥珀糖へと伸びた。
細く白い指先が、ピンク色の欠片を口に運ぶ。
その仕草があまりに美しくて、鈴花は思わず見惚れてしまった。
「ど、うですか⋯⋯?」
恐る恐る尋ねると、
「⋯⋯悪くない」
「本当、ですか?」
「⋯⋯甘すぎなくて、いい」
彼はそう短く答えると、口元の粉を払うこともせず、窓の外へと視線を投げた。
夕暮れ時の淡い光が彼の横顔をなぞり、透き通るような肌をいっそう白く際立たせている。