くっ殺女騎士は魔王の執愛から逃れられない

エピローグ

 ライの転移魔法でアイビーの私室に戻ってようやく彼の手から下ろされた。
 見慣れた室内に、ようやく息ができた気がする。
 どうやらそれはライも同じようで、ぐっと伸びをしていた。
 盗み見るような視線に気がついたライが、アイビーの頬を指で撫でた。

「お疲れ様」
「あぁ。ライもな」

 青年姿のままのライをぼんやりと見つめる。
 小さな姿では室内が広く感じていたが、今の姿では逆に狭く感じてしまうから不思議だ。

「ちょっと寝室に入ってもいいかな? 持ってきたいもの」
「ん? あぁ、いいぞ」
「じゃあちょっと失礼するね。ソファーに座っときなよ」

 ライに促されソファーに座る。
 彼の足音を聞きながら、柔らかな座り心地にほっと息を吐いたのは無意識だった。
 近づいてきた足音が真後ろで止まり、アイビーは不思議そうに首を傾げる。

「はいこれ」

 アイビーの頭の上からぬっと黒色のテディベアが差し出された。
 予想外の物の登場に、アイビーは目を丸くする。

(ん?)

 ライから受け取ったテディベアの首に見慣れないリボンがかけられている。
 アイビーが目をぱちくりさせている間にライが正面へと回り込んできた。
 隣に座らずに床へ跪いたことに、アイビーは目を丸くする。

「どうした?」
「リボン、ちゃんと見て」
「リボン?」

 よくよく観察してみると、リボンに指輪が二本通されていた。
 アイビーが気がついたからか、ライは花が綻んだような笑みを浮かべる。

「アイビーに受け取ってほしいんだけど、受け取ってくれる?」
「……あぁ、もちろんだ」
「指輪、僕がつけてもいい?」

 返事の代わりに、テディベアのリボンを解いて二本の指輪を取り出してライへと渡した。
 そっと左手をとられ、薬指に指輪をはめられる。
 感動のままじっと見ていると、ライが自分で指輪をはめようとしているのが視界に入り、慌てて止めた。

「残りはライのだろう? 私もはめたい」
「いいの? じゃあお願い」

 ぱっと輝いたライの顔は期待に満ちている。
 渡された指輪を摘まみ、ライの左手を取った。
 震えそうになる手で薬指にはめると、砂糖に蜂蜜をかけたような笑みのライと視線が絡んだ。

「指輪、いいね。僕のお嫁さんって感じで」
「ははっ、たしかにな。これでライは私の旦那様ってことか」
「いいね、その呼び方」

 ソファーに手を着いたライの顔が近づいてくる。
 こつんと額同士がぶつかり、アイビーは目を瞬かせた。
 アイビーの反応にライは苦い笑いを零しながら、甘い声で囁く。

「目、閉じて」
「? あぁ」

 アイビーの両目が閉じられる。
 素直な行動にライが小さく笑って、そっと二人の影が重なった。
< 39 / 39 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:4

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

表紙を見る 表紙を閉じる
「求婚をされたのは影武者なのだから、お前が皇国に嫁げばよかろう」 「……ご命令とあらば」  妖精姫と名高い双子の妹に舞い込んできた縁談。  しかし皇王オデルに求婚されたのは、影武者であるシルディアだった。  残虐非道と恐れられるオデル妖精姫を差し出すことに難色を示した国王は、シルディアを皇国に嫁がせた。  皇国に嫁いだシルディアだったが、嫁いだその日に影武者だと暴かれてしまう。  シルディアは【つがい】ではないと送り返されることも覚悟していたが、オデルは咎めることもなく正式な婚姻に向けて準備を始めた。  妖精姫である妹がつがいだと思い込み困惑するシルディアに、オデルは告げる。 「俺のつがいは君だよ。シルディア」 「……え? わたしが妖精姫でないと気付いた上で求婚してきたってこと?」 「そうだよ。俺がシルディアだけを愛してるってわからせてあげるから、早く自覚してね」  オデルから狂気的な執着を向けられたシルディアは、彼の言動に翻弄され、自身が【つがい】であると自覚していく―― 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop