くっ殺女騎士は魔王の執愛から逃れられない
九話
「む」
ぽむっと音を立ててライの姿が少年へと戻った。
座っていても見上げなければならない身長差から一変して、今度は見下げる形なる。
アイビーは隣で不服そうに頬を膨らませているライに苦笑をこぼした。
「五分程度ってところだな」
「元に戻れる時間が一向に長くならないのには何か理由があるのかもしれないね」
小さな体で足を組むライはどう見ても幼子が大人の仕草を真似ているようにしか見えない。
だがローテーブルに鎮座する懐中時計を悩ましいげに見つめる表情には妙な色気があり、本来の年齢はやはり青年姿なのだと納得できる。
アイビーはライの意見に同意しながら頷いた。
「あぁ。そもそもこの一ヶ月、貴殿がこそばゆい言葉ばかり吐いていたから進展がいないんだ。分かっているのか?」
「だって可愛い反応してくれるんだもん」
「私で遊ぶな」
アイビーはわざとらしくため息をつく。
ライが協定を結んでから一ヶ月、彼はへらへらと砂糖菓子のような言葉を並べ立ててばかりだ。
その上、ライの姿が青年へ戻る時間も出会った当初と変わらない。
じれったくなってしまっても仕方ないだろう。
アイビーはお手本のような笑みを浮かべるライに、じとりと目を向けた。
「どーしたの?」
「いい加減、それやめたらどうだ?」
「それって?」
「胡散臭い笑顔」
ぴしりと空気の凍った音がした。
急降下した室内温度に、アイビーの肩がこわばる。
ますます綺麗な笑みを深くしたライは、可愛らしい顔のままこてんと首を傾げた。
「どうしてそう思うの?」
「いつも私に向ける顔が同じだからだ。一目惚れだという貴殿の話を信じるのであれば、少しでもよく見られたくてとも考えられたんだが……」
「……」
「貴殿の目には、恋い焦がれているような感情が見えない」
「……目、かぁ」
「あぁ。私の両親は貴族ではあるがたいそうな大恋愛をしたらしくてな。娘が18になってもイチャイチャしているぐらいだ。だから気がついた」
窓の外に視線をやり、アイビーは人前であってもお互いしか見えないと言わんばかりの両親を思い出す。
たしかに愛情を持って育てられたとは思うが、いかんせん、両親の興味はお互いにしかない。
両親のどろりとした蜂蜜のような瞳を忘れることはないだろう。
「そ、かぁ。ちなみにどのあたりとか聞いてもいい?」
「全部だよ。貴殿の目には熱がない」
「熱?」
「あぁ。この人さえいればいい、と一目で分かるようなものだ」
「なるほどね」
ライに説明をすると、冷たかった空気はいつの間にか元に戻っていた。
立ち上がったライがアイビーと窓の間に立つ。
アイビーの目線よりも低い位置にあるライの顔へ視線を下げる。
「どうした?」
「じゃあさお互いを知るために、デートとかどうかな?」
「は?」
ぽかんと口を開いたアイビーに気を良くしたのか、ライがにんまりと笑った。
ライの意図が分からず、アイビー警戒するように彼を見る。しかしライはそれを咎めることなく、アイビーの頬に手を伸ばした。
やわやわと小さな手に撫でられアイビーはますます混乱してしまう。
「この一ヶ月、ずっとこういう検証ばっかだったからね。息抜きしよう」
「まぁ休息は必要だな」
「でしょ? それに、僕の気持ちが疑われたままなの忘れてたし」
「忘れたままでもよかったんだが」
「それはちょっといやかな。だって一目惚れした気持ちは今も心の隅にちゃんとあるから」
ライのまるで愛玩動物を撫でるような仕草に、アイビーは引っかかりを覚えた彼の言葉を舌に乗せた。
「……心の隅、か」
喉に小骨が刺さったような違和感を覚えたアイビーは、湧いてでたそれを捕まえようと逡巡する。
すると脳内にとある可能性がひらめいた。
(一目惚れした気持ちが元の姿へと変えていたとしたら? 姿が変わる時間も気持ちの大きさとともに変わったら?)
仮説を立ててしまえば、今後の予定も引き算のように出来上がっていく。
そんなアイビーを不思議そうに見ていたライが、遠慮がちに首を傾げた。
「アイビー? どうしたの?」
「いや、なんでもないさ。ひとまずデートするんだろう? どこに行くんだ」
「え、意外と乗り気だね……? 断られるかと思ってたんだけど」
アイビーは困惑を隠しきれないライに、意識してにっと笑ってみせた。
「まぁ試したいこともあるしな」
「アイビーが言いたいことはよくわからないけど、ひとまずお互い着替えよっか。着替えたら城門前に集合でいい?」
「あぁ。侍女たちを呼んでくれるか?」
「もちろんだよ」
ライが頷くと同時に侍女が二人現れた。
彼女たちはアイビー専属と言っていいほど身の回りの世話をしてくれている。
この一ヶ月で当たり前になってしまった登場に、アイビーは苦笑しながら立ち上がった。
「それじゃあ後でな」
ぽむっと音を立ててライの姿が少年へと戻った。
座っていても見上げなければならない身長差から一変して、今度は見下げる形なる。
アイビーは隣で不服そうに頬を膨らませているライに苦笑をこぼした。
「五分程度ってところだな」
「元に戻れる時間が一向に長くならないのには何か理由があるのかもしれないね」
小さな体で足を組むライはどう見ても幼子が大人の仕草を真似ているようにしか見えない。
だがローテーブルに鎮座する懐中時計を悩ましいげに見つめる表情には妙な色気があり、本来の年齢はやはり青年姿なのだと納得できる。
アイビーはライの意見に同意しながら頷いた。
「あぁ。そもそもこの一ヶ月、貴殿がこそばゆい言葉ばかり吐いていたから進展がいないんだ。分かっているのか?」
「だって可愛い反応してくれるんだもん」
「私で遊ぶな」
アイビーはわざとらしくため息をつく。
ライが協定を結んでから一ヶ月、彼はへらへらと砂糖菓子のような言葉を並べ立ててばかりだ。
その上、ライの姿が青年へ戻る時間も出会った当初と変わらない。
じれったくなってしまっても仕方ないだろう。
アイビーはお手本のような笑みを浮かべるライに、じとりと目を向けた。
「どーしたの?」
「いい加減、それやめたらどうだ?」
「それって?」
「胡散臭い笑顔」
ぴしりと空気の凍った音がした。
急降下した室内温度に、アイビーの肩がこわばる。
ますます綺麗な笑みを深くしたライは、可愛らしい顔のままこてんと首を傾げた。
「どうしてそう思うの?」
「いつも私に向ける顔が同じだからだ。一目惚れだという貴殿の話を信じるのであれば、少しでもよく見られたくてとも考えられたんだが……」
「……」
「貴殿の目には、恋い焦がれているような感情が見えない」
「……目、かぁ」
「あぁ。私の両親は貴族ではあるがたいそうな大恋愛をしたらしくてな。娘が18になってもイチャイチャしているぐらいだ。だから気がついた」
窓の外に視線をやり、アイビーは人前であってもお互いしか見えないと言わんばかりの両親を思い出す。
たしかに愛情を持って育てられたとは思うが、いかんせん、両親の興味はお互いにしかない。
両親のどろりとした蜂蜜のような瞳を忘れることはないだろう。
「そ、かぁ。ちなみにどのあたりとか聞いてもいい?」
「全部だよ。貴殿の目には熱がない」
「熱?」
「あぁ。この人さえいればいい、と一目で分かるようなものだ」
「なるほどね」
ライに説明をすると、冷たかった空気はいつの間にか元に戻っていた。
立ち上がったライがアイビーと窓の間に立つ。
アイビーの目線よりも低い位置にあるライの顔へ視線を下げる。
「どうした?」
「じゃあさお互いを知るために、デートとかどうかな?」
「は?」
ぽかんと口を開いたアイビーに気を良くしたのか、ライがにんまりと笑った。
ライの意図が分からず、アイビー警戒するように彼を見る。しかしライはそれを咎めることなく、アイビーの頬に手を伸ばした。
やわやわと小さな手に撫でられアイビーはますます混乱してしまう。
「この一ヶ月、ずっとこういう検証ばっかだったからね。息抜きしよう」
「まぁ休息は必要だな」
「でしょ? それに、僕の気持ちが疑われたままなの忘れてたし」
「忘れたままでもよかったんだが」
「それはちょっといやかな。だって一目惚れした気持ちは今も心の隅にちゃんとあるから」
ライのまるで愛玩動物を撫でるような仕草に、アイビーは引っかかりを覚えた彼の言葉を舌に乗せた。
「……心の隅、か」
喉に小骨が刺さったような違和感を覚えたアイビーは、湧いてでたそれを捕まえようと逡巡する。
すると脳内にとある可能性がひらめいた。
(一目惚れした気持ちが元の姿へと変えていたとしたら? 姿が変わる時間も気持ちの大きさとともに変わったら?)
仮説を立ててしまえば、今後の予定も引き算のように出来上がっていく。
そんなアイビーを不思議そうに見ていたライが、遠慮がちに首を傾げた。
「アイビー? どうしたの?」
「いや、なんでもないさ。ひとまずデートするんだろう? どこに行くんだ」
「え、意外と乗り気だね……? 断られるかと思ってたんだけど」
アイビーは困惑を隠しきれないライに、意識してにっと笑ってみせた。
「まぁ試したいこともあるしな」
「アイビーが言いたいことはよくわからないけど、ひとまずお互い着替えよっか。着替えたら城門前に集合でいい?」
「あぁ。侍女たちを呼んでくれるか?」
「もちろんだよ」
ライが頷くと同時に侍女が二人現れた。
彼女たちはアイビー専属と言っていいほど身の回りの世話をしてくれている。
この一ヶ月で当たり前になってしまった登場に、アイビーは苦笑しながら立ち上がった。
「それじゃあ後でな」