サブキャラ令嬢ですが、神竜王陛下を溺愛させて幸せエンドにします! ~ヤンデレ親友と同盟して、悲恋ルートを全部へし折ります~

神竜王は、人見知り。

 私の神竜王(ローラン)召喚は、素早く王宮に報告された。神竜ではなく、神竜王の召喚は前例がない。事が事だけに、国王陛下御自身が来られようとしたのを止めて、パラメデウス・マーニ・ルア・ナルバエス大公──シルヴィスの父で宰相閣下だ──が神殿にお出ましになるという

 召喚の間から、応接の間に移って待っている間に、リヒト殿下、シルヴィス、オリヴィエ(竜の召喚に成功しかけたところで、私の神竜王召喚を聞いて失敗したらしい)、そしてリヒト殿下の護衛としてカインが来た。攻略キャラ揃い踏みは、何気に初めてだと思う。

「…………アレクシア……」

 私の隣に立つローランが、人口密度の高さに辟易した声で訴えてくる。

「少し、我慢して?」
「……とても嫌だけど、どうしても我慢しなくてはいけないか?」
「ごめんなさい」

 私が謝罪すると、ローランは首を横に振った。

「アレクシアの責任ではない」
「でも、召喚したのは私だから」
「……それも、アレクシアの責任ではない」

 ローランの言葉の意味を、私は知っている。この先で召喚されるであろう「女神・ミレイ」を守らなければという想いが、彼にはある。……横恋慕なのよねえ、私……その点は立派に悪役令嬢だわ。結果までそうなりたくはないけど。

「アレクシア。そちらは……まこと、神竜王か」

 リヒト殿下が、昂奮を抑えきれない口調で問いかけ、私が答えるより先に、オリヴィエが断言した。

「間違いありません。神竜王は、その時の最強の竜。当代は、始祖と同じ蒼銀の髪と、感情によって色を変える瞳を持つ、白銀の竜だと聞いています。神竜には、青竜、紅竜、黒竜は多くいますが、白竜は稀です。まして白銀となると──王以外にあり得ない」

 さすが竜オタク、詳しい。なのに、何故、竜の召喚に失敗するのか聞きたいところだ。恨まれたくないから聞かないけど。

「オリヴィエ、おまえ、それほどに詳しいのに、何故に竜を召喚できないのだ?」

 空気を読むということを、決してしないリヒト殿下。ある意味強い。オリヴィエは、恨みがましい目で私を見る。その眼は「さっき、竜を喚べかけたのに!」という逆恨みに満ちている。

「……神竜は、清い者を尊ぶ」

 ローランが静かに言った。え、やだ、私が清浄無垢だなんて、そんな。

「魔術で、他者を傷つけたことがある者は、決して神竜を召喚できない」
「……神官とはいえ、攻撃系の魔法は学びます。神殿と王宮をお守りするのは、近衛兵だけの務めではありませんし」

 オリヴィエは、「それが原因かぁ……」と溜息まじりだ。ローランは、私を見て微笑んだ。──うん、私、今ならエージュに堕ちていった男性達の気持ちがわかります。

「アレクシアは、清い。そして公平だ。私の真名を知りながら、私を支配しようとしなかった。その誠意に、私は応える」
「聞き流すことはできないな、アレクシア」

 シルヴィスが私に向けた目は、猜疑心を映したようなものだった。

「何故、神竜王を支配しなかった? そうすれば、我が国は」
「最強の武器を手に入れたと。そうおっしゃるおつもりなら、私は、ローランに助力を望むことはしません」
「……何?」
「召喚魔法は、本来は対等のもの。私如きが神竜王と対等なわけはありませんから、今回のことは、神竜王のご厚意によると思っています。その方を、意志なき武器と貶めることは、私は決して致しません」

 私は、シルヴィス──そして、入り口に立っている宰相閣下に向けて言った。ローランが「武器」のような扱いを受けるなら、その前に適当なお願いをして神竜界に帰らせた方がマシだ。

「戦への助力は願うかもしれません。ですが、神竜王が降臨したというだけで、シルハークへの牽制になるはずです。違いますか、シュラウス将軍」

 カインは私の問いに答えず、沈黙している。──否定しない。

「大神官様は、私に召喚魔法を教えて下さる際におっしゃいました。決して、相手をモノとして扱うなと。私は、そのお言葉を守ります」
「国より、神竜王を選ばれるか、アレクシア姫」

 宰相閣下の声は、感情がなく、石のように硬い。けれど、冷ややかさはない。
 ヴェルスブルクとローラン、どちらを取るか。そんなこと、決まっている。

「いいえ。私は、両方を望みます」

 どちらかしか手に入らない、そんなのは「華寵封月」のローランルートで十回以上は見たのよ。
 元の世界に帰るか、ローランと過ごすか。どっちを選んでもバッドEDで、正解は「どちらも願わない」なんだけど、選択肢に「どちらも欲しい」がないことに、どれだけ苛立ったことか。

「ローランは、私を守ってくれると言いました。それはつまり、私の国──ヴェルスブルクを守ってくれるということです。それ以上、何をお望みですか」
「神竜は希少だと申せば、おわかりかな」

 ──要するに。
 ローランとの「召喚契約」を、王家──できれば自分達に移せと言いたいんだろう。誰が渡すか。

「……私を召喚し、従えるだけの力が、おまえにあるのか?」

 蠱惑的な声が、冴え凍ったように響き渡る。

「アレクシアは、私に敬意をくれた。だから私も敬意を返した。神竜に敬意を払わぬ者が、その王を支配できるつもりか」

 ローランの視線──そこに宿る真紅の光を受けた瞬間、宰相閣下は蒼白になった。小刻みに震え、脂汗が浮き出る。

「……父上?」

 シルヴィスが、怪訝な顔をして駆け寄る。それを見つめながら、ローランは寿ぐように宰相閣下の名を紡いだ──怒りを込めて。

「パラメデウス・マーニ・ルア・ナルバエス。月の名を持つ者。──魂ごと、破壊してやろうか?」
「──……っ!」
「鎮まられよ、神竜王よ。人は弱き者。己の地位と身分を、己の力と見誤る」

 レフィアス様の穏やかな声が、私を勇気づける。……ここで宰相閣下に恩を売っておくのは、悪くないことだと思う。

「ローラン」

 綺麗な蒼銀の髪に触れた。さらさらの質感が、ローランの存在を「現実だ」と伝えてくれる。

「……人は、弱いの。だから、神竜の力を欲する」
「アレクシアは、私の力を求めなかった。ただ、与えてくれた」
「私こそ、あなたに与えられている。──人の弱さを許してとは言わない。あなたへのこの非礼は、許されるものじゃないわ。だから」

 私は、心から願い、膝を折った。王らしく傲然としていたローランが、途端に人見知りらしく怯えた顔になる。

「……(こいねが)います。あなたの慈悲を」
「アレクシア」

 ローランが戸惑ったように私を呼んだ時、レフィアス様も膝をついた。深く#頭__こうべ__#を垂れ、私に賛同していると態度で示す。
 黙って、カインがそれに続く。オリヴィエも、リヒト殿下も。その様を見て、シルヴィスは自分の父親の頭を押さえつけて、無理矢理拝跪させた。同時に、自分も膝をつく。

「……神竜王。我が父の非礼に、どうか、王なる者の慈悲を」
「私からもお願いする。宰相の非礼は、王族たる私の咎。礼を失した言動を、どうか──」

 リヒト殿下が謝罪した時、シルヴィスは父親の頭を殴りつけた──心境はおそらく「何故、父上の為にリヒトが頭を下げねばならぬのだ!」だと推測できる。

「……アレクシア……」

 どうしよう、という顔で、ローランは私を呼んだ。さっきまでは「侮辱された怒り」があったけれど、続けざまに謝罪されたことで「周りが人間だらけ」ということに思い至ったんだろう、怯えている。

「……どうか、慈悲を」

 私は、声音に「頷いて」という響きを含ませた。ローランは、小さく頷いた。

「……アレクシアの、言葉通りに」

 それは、「アレクシアが言うから許してやる」という意味になるのだけれど、ローランはそこまで考えていない。ただ、「アレクシアの言う通りにすれば、こいつらと離れられる?」という人嫌いの期待だ。

「ありがとう、ローラン。……大丈夫よ」

 一緒に帰りましょうと言った私に、ローランは安心したように微笑んだ。

「アレクシア姫」

 さすがに、神竜王と一緒に帰ると言ったことには、レフィアス様も困った顔をなさったけれど──私にはゲーム知識がある。オリヴィエが神官の寄宿舎でローランと暮らしていたんだから、そう無理なことではないはずだ。

「宰相閣下が落ち着かれましたら、ご連絡下さいませ。陛下へのご報告は、その時に」

 私はそう言って、「早くここから出たい」と人見知りモードに突入しかけているローランを手を取り、部屋から出た。──いいトシ&身分&地位を持つおっさんの、失禁寸前の醜態は、見なかったことにしてあげますから、この我儘は譲りません。
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