彼女の季節を戻したい

長袖の知らせに喜ぶ彼女


 寒いなぁ、と思って目が覚めた。
 しばらく布団の中であったまって、頑張って布団から這い出て、リビングに行く。

「おはよ、お兄ちゃん」

 そして、柊里に声をかけられて、眼の前を見て思わず足が止まった。

「長袖?」
「おはよう、お兄ちゃん」
「え? あ、うん、おはよう」

 眼の前には、長袖を着た柊里がいた。
 いや、柊里もさすがに今までずっと半袖でいたわけではない。
 半袖の上に、カーディガンとしか呼べないような薄い布の長袖をまとっていることはあった。
 だけど、今の柊里が着ているのはボタンがない長そでだ。
 とうとう柊里が長そでのTシャツを……
 というか……

「お前、長袖の服、上着以外にも持っていたんだな」
「そこから!?」
「うん」
「ひどいなぁ……」


 そんなわけで。

「葵、聞いてほしいことがあるんだけど」
「ん?」
「実は柊里が今日、上着以外の長袖を着ていた」

 僕は、さっそく立役者だと思われる葵のもとへと行って、柊里のことを報告した。

「えー!?」
「驚くよね」
「うん」
「けれど……」
「何?」
「その上には何も着ていなかったけどね」
「けれどいい兆候なんじゃない? 一日中長袖だっていうことでしょ?」
「うん、まあそういうことになるね」
「じゃあ進歩だよ」
「そうだといいな」

 そのあと、二言ほど言葉を交わしてお互いの朝の準備に取り掛かることにした。


「ただいま〜」
「お帰り、お兄ちゃん」

 学校は無事に終わり、家に帰る。
 ちなみに、僕は帰宅部だ。
 趣味は読書だし、田舎の各学年一クラスしかないような学校に文学部があるわけないから、部活には入る価値がないと思ってる。
 別に入っている人を悪く言うわけではないけれど。
 それに、もし文学部があっても多分入らないと思う。
 家での環境は嫌いじゃないから。
 家で、ゆっくりと本を読むのは好きだから。

「今日、ママが帰ってくるの遅いでしょ?」
「うん」
「そこでね、少し贅沢をして、今日の夕飯は……」
「餃子?」
「違う違う。鍋だよ」
「鍋!?」

 それは嬉しい。

「お兄ちゃん、鍋好きでしょ? この前餃子はやったからね」
「ありがとう」
「どういたしまして」

 柊里は料理が上手くて、好きだから、母さんが帰ってくるのが遅い時にはこんなふうに作ってくれる。

「ただ、ちょっとは手伝ってね」
「もちろん」

 それくらい、鍋を食べられるならなんてこともない手間だ。


 そして、次の日の朝。

「おはよ、お兄ちゃん」
「おはよう……え?」
「何?」
「半袖に戻った?」
「うん、昨日思ったけど、半袖プラスカーディガンって長袖よりもいいし、教室は暑いから調節できるし、いいことづくめだと気づいた」
「さいですか……」



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