彼女の季節を戻したい

思いに気付く彼女


「今日はありがとう。また、冬青に救ってもらったね」

 送る途中、そんなことを言われた。

「そうだったら僕も嬉しいよ」

 なんと言ったって、葵と僕の境遇には、似たものがある。

「……ありがとう」

 僕は今も幸せだけど、葵は今までは幸せじゃなかった。

「顔を見ているようだけど、何かついている?」

 だけど、似た境遇の人が、幸せじゃないのは辛い。

「ううん、ついていない。ただなんとなく見たくなっただけ。私の救世主の顔だから」

 僕ももしかしたら葵のようになっていたかもしれなうと思うと……

「救世主って、大げさだね」

 葵には救われてほしいのだ。

「ううん、大げさじゃない。私……ううん、今はいいや」

 そして、それで僕も救われたように感じることが出来るから。

「何?」

 結局僕がやっていることは自己満なのだ。

「えっとね、今に見てろ! って言うこと。つまり感謝しているってこと」

 だから、お礼は言わなくていい。

「ええ……? どこが繋がっているの?」

 そう思っているはずなのに、感謝を伝えられるのはくすぐったい。

「いろいろ」

 これは自己満なんだ。

「どういうことなんだよ……」

 感謝なんて受け取ったら、自分のためにした行動じゃなくなっちゃいそうで……

「ちゃんと、分からせてあげるよ?」

 それも少し、怖い。

「分からせてあげるって……怖い言い方をするね……」

 お父さん……

「あ、冬青、ここまでありがとう、ばいばい」

 その言葉で思考が途切れた。
 いつの間にか、葵の家の前にいたみたいだ。

「あ、うん、ばいばい」

 そして、葵と目が合った。
 葵の目は、とてもキラキラしてて、見てて眩しくなるくらいだった。
 今日、弱々しい声を出していた人物と同じ人物だとは思えないくらい。
 
 もう、吹っ切れたのかな。
 もう、いつも通りになったのかな。

 そんなことを思って、あることに気がついた。

 そういえば、さっきの会話の間、目を合わせていなかったかも。

 なんだかそのことがいたたまれなくなり、ふと、葵の目をじっとみつめる。
 そう、さっき葵が僕を見ていたように。

「……!?」

 寒いわけではないのだろうに、顔を赤らめた彼女がそこに、いた。

「……え?」

 葵、どうかしたのかな?

「なんでもない!」

 そして、焦ったような葵の声が聞こえた。
 そうなんだ、なんでもないんだ。
 ……なんでもなさそうには見えないんだけど。

「今度こそまたね! ばいばい!」
「あ、うん。またね」

 相変わらず焦ったような声を出して、また別れの挨拶を言う葵は、どう見てもいつも通りのようには思えなかった。

 ……さっき、いつも通りになったと思って安心したけど、勘違いだったようだ。

 だけど……

 別れ際に見た葵の頬を赤らめた顔は、なかなか忘れることが出来なかった。


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