「寒い」と、夏を連れた彼女は言った
僕と話す彼女
早乙女さん……葵と話す時間が出来たのは昼食のときだった。
他の人達はおおかた葵とはもう話したみたいだし、昼食の時間は席を移動することが出来ないから、ようやくそれで席が近い僕にも喋るタイミングがやってきたというわけだ。
「ねえ、葵はさ、今までどういうときになら寒さを感じたことがあるの?」
いきなりさっきの僕の名字に対する反応が何だったのかは聞けなくて、他の話から入ることにした。
「そうだなぁ、小さいときは多分感じていたと思う」
「そうなの?」
「うん」
「それなのに、今こうなっているの?」
「うん。麻痺していったんだろうねぇ」
このときの僕は、この発言に隠れた彼女の闇には、全くと言っていいほど気づいていなかった。
「凄いね。僕は寒がりだから真逆だ」
信じられない。
そんな思いを込めて、発言した。
実際、朝、布団から出ることだけでも一苦労だ。
「そうなの?」
「うん。……葵はさ、夏はどうしているの?」
「夏? 夏も普通に半袖だよ?」
「違う違う。そんなに暑がりだと、夏、かなり暑いんじゃないの? そこはどうなっているの、っていうこと」
「ああ、そういう。
うーん、まあ夏は夏でね、少しずつ夏の気温に慣れていって、そこまで暑さは感じないよ。扇げばなんとかなるくらい」
「本当に?」
「うん」
つまり、暑がり、じゃなくて寒がりでもあるということ?
不思議だなぁ。
「……あのさ、うちの妹に会ってみてくれない?」
「妹さん? どうして?」
「実はうちの妹、自称暑がりでさ。冬休み前まではずっと半袖だし、小六なんだけど学校でも昼間は上着を脱いで半袖らしいんだよ。
小一までは普通だったから、強がっているだけだと思うんだけど……
だから、本当の暑がりを見せてやって欲しいなって思って」
「そんな妹さんがいるんだ。あの夏服の子みたいだね」
ヒカルかぁ。
「ヒカルはまだいいんだ。寒いって認めているから。だけど妹は寒いと思っているはずなのにそれさえ言わずに半袖だから心配で……」
「うん、いいよ。いつにする?」
「今度の週末とかでいい? どっちが空いている?」
「うーん、冬青がどっちでもいいなら日曜日がいいかな。土曜日は片付けに追われそうだし」
「分かった。昼過ぎに葵の家の方に迎えに行くね」
「え? 何で知っているの?」
「葵の家って、早乙女のおじいさんおばあさんのところでしょ?」
「あ、そっか。そりゃそうだよね。分かった、お願いするね」
「うん」
話のキリがつき、葵が昼食を食べ終えたのを境に、僕と葵の会話は消えた。
「さっそく遊びに行く約束か?」
合掌をし終えたとたん、武がこちらにやって来て話しかけてきた。
「いや、妹の目を覚ますための約束」
「ほうほう。これは相当に手が早いようで」
「なんで僕が手練れみたいになっているんだよ……」
「ノリ悪いなぁ」
「内容が内容だし」
「はいはい。だけど、結構みんな羨ましげだったよ?」
「……」
気づいてはいたことだったし、面倒くさかったから、無視することにした。
大体、こんなの偶然だ。
早く葵と遊びたいなら、明日の金曜日にでも約束を取り付ければいい話なんだから。
自分から頼んだこととはいえ、思わずそういうことから逃避してしまうのだった。
